第15話 「荒らされた教室」


静かになったのはほんの一瞬で、教師は携帯で警察に連絡する者と走って何処かへ行く者。

美沙と琴は青い顔色で震えながらその場にへたり込む。

教室中にこびりついてる血液はもうほとんど乾いているが、血溜まりになってる部分はゼリー状になってるのが数ヶ所。


自分はそこに運悪くダイブ。クソだ。


〔あらぁ、なんて素敵な光景かしら〕

『やぁランカ。君にとっての素敵は、今は私にとってクソだよ』


大騒ぎの廊下の向こうからフラッと現れたランカは楽しそうに笑いながらこちらへ来るが、今は一切笑えない。

外からはサイレンが聞こえてくるし、もっとめんどくさい事になるのは目に見えてる。


〔貴方のために私が手伝ってあげるわ。少し痛いかもしれないけど勘弁して頂戴ね〕


いやいやいや、何をするつもりだと聞く前にノーモーションで近寄ってきたランカが体を通り抜けていった。

その瞬間、酷い吐き気と頭痛が襲ってきてグラッと視界がブレる。


「紅っっ!!」


誰かの呼びかける声が聞こえたが、返事をしようという意思とは裏腹に視界は霧がかかったようにぼんやりとしプッツリ意識を失った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーー


紅が倒れるのとほぼ同時に警察、救急車、学校の教師たちの車が到着し、玄関から入ってきて現場を見た瞬間、、、


その場の空気が凍った。


「第一発見者の3人には後で話を聞く、倒れてる子は窓側から回収しましょう」


警察はテキパキと周りに指示を出し、紅は窓から救急隊に回収された。


「紅、返事してッッ…」


ストレッチャーに乗せられた紅は真っ白な顔色で身動ぎ一つしない。

病院についていろいろな検査をされてる間も目を開けることはなかった。


「検査をしましたが外傷はなく、何処にも異常はありませんでした。おそらくは精神的なものが原因でしょう」


付き添いできた教員はそう告げられた後、用があるからと看護師に告げて一度席を外して学校へ戻った。



搬送されてから数時間、ちょうどお昼になろうという頃に紅がうっすらとまぶたを持ち上げた。

数秒ボーッとしてきょろりと周りを見渡し腕に繋がれてる点滴を認識すると、ここは病院で、自分は病室にいるのだと把握する。

むくりと体を起こして窓際に行き開けて声を聞く。


[大変な1日だねぇ][でも、見てる方は楽しいよ][たしかに]

『他人事だからって呑気な…』


苦笑しながら窓の外に目を向けた。


[これからが本番、面白いことがたくさん起きるよ]

『なんて不吉なことを言うんだよ…』


げっそりとしながら呟くが、そんな事お構いなしに風は笑う。


老若男女ろうにゃくなんにょ様々な声が笑うのを聞くたびにいつも不思議に感じる、この声の正体は一体なんなのか。

まぁ、そんなことを考えてもしょうがないからすぐに考えるのをやめるんだけどね。

面白いことを求めてる風たちは、何かに気付いてても教えてくれないことだって多々ある。


[相変わらず残酷だねー][死神みたい]

[自分のクラスメイトをバラしちゃうんだもん]

『しゃーないじゃん、依頼だったし。教室のは不可抗力だよ、その場に居ただけで私がやったんじゃない』


ぼそりとそう呟いた時、ドアの向こうで人影が動いたのが見えたような気がしてドアを開けると友人2人が立っていた。


衝動的に動くならば今すぐこの場で殺してしまうのにと考えながら、でもそれはやったらまずい事だ。よく理解してる。


『何してんの?来たなら入ればいいじゃん』


普段と変わらぬ調子で話しかけて中に入れると、素直に入ってきたがどこかぎこちない。


「あのさ…紅。…教室のは不可抗力だっていうのは…」

『何勘違いしてるのか知らないけど、やべえ所にダイブしたこの状況が不可抗力だって話してただけだよ』

「ほ…ほんとに…?」

『美沙が人の腕をずらしたりしない限り、あんな所に自分でダイブしないから』


たくみに嘘と真実を混ぜて話し、2人を丸め込んで空気を緩ませる。

緊張が解けた美沙が、誰かに依頼されて紅が誰か殺してアレやったと思っちゃった〜などとのたまった。


んな事あるはずないだろうと軽く流して思う。


こういう時に限って鋭いのなんなの。







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