02_直進

 黒瀬が、接近するワームワームを見ていると、声が聞こえた。


「あいつの輪っかを抜けるには、普通に抜けようと思っても勢いが足りない。影力を使って、一気に抜けなればならない」


 目玉のダーカーの声だ。姿は見えないが、頭の中に声が聞こえてきた。


「確かにな、浮游ふゆうの力だけでは、移動速度が若干遅い気がする。勢い付けられるものがあればいいんだけど……そうか、いいことを思いついた。なけば、作ればいいんだ」


 黒瀬は、ふといい考えを思いついた。影で短剣を作る要領ようりょうで後ろに壁のようなものを作り出した。


「この壁を踏み台にして、一気にあのワームワームの輪っかをくぐり抜ける!」


「その踏み台にして、くぐり抜けるつもりか。だが、気をつけなくてはならない。少しでも、勢い足りなければ、私のように奴に捕食されてしまう」


 目玉のダーカーの心配する声がする。黒瀬は、その心配をかきけるような元気な声で答えた。


「大丈夫だ!やってやるさ」


 黒瀬は、作り出した壁を踏み込み、足ぞこに影力をためる。イモムシ状のワームワームの肉体が、宙を泳いで迫る中、ワームワームの輪っかの先を見る。


 一気に、突っ切る。チャンスは一回。


 タイミングを見計らい、黒瀬は覚悟を決める。


 よし、今だ。


 作り出した壁を踏み台にし、溜め込んだ影力を一気に開放する。すると、弾丸だんがんのように凄まじい勢いで、黒瀬は、ワームワームの輪っかの中に向かって飛んでいく。


「行けえええええええ!!!」


 叫び声を上げて、自分の中の迷いをかき消しながら、まっすぐ進んでいく。そんな黒瀬を追いかけるようにイモムシ状のワームワームは、先端を鋭く尖らせながら迫ってきていた。


 あの細長い物体。輪っかを作るだけじゃなく、先端を尖らせて襲ってくることもあるのか。


 次々と襲い来るイモムシ状のワームワームを勢いを殺さずに回避し、短剣で切り刻みながら進む。


 立ち止まることは、できない。勢いを殺さず突っ切る!


 黒瀬は、ただひたすらに周囲を覆うワームワームの輪っかをくぐる。輪っかは、彼が通った瞬間、急速に、縮まる。


 なんとか輪っかを抜けられた。奥になにか見える。あれは、一体……。


 奥のほうで、神々こうごうしく輝く光がまぶしい。その光の中で、誰かが、気を失って捕らえられているのが見えた。


 朱音、どうして君がそこにいるんだ。


「まさか、そんなことが……」


 頭の中で目玉のダーカーの声が響く。


「どうしたんだ?」


 目玉のダーカーの驚いたような声に、とっさに黒瀬は問いかけた。


「私のコアだが、私達が進む先でその存在を感じる」


「……」


「どうやら、私のコアは、ワームワームのコアと一体化してしまっているようだ」

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