18_瞬間移動

「とんでもない距離だ。僕たちが生きてたどり着ける方法はあるのか」

  

 黒瀬は、ダーカーから語られた言葉に、驚きを隠せなかった。正直、コアのところまで、行ける気がしない。


「案ずるな。私の力を使えば、10分もあれば、コアのところまで行ける」 


 ダーカーは、コアのある1億5千万キロメートル先まで行く算段さんだんはあるようだった。


「あなたの力……全く想像つかないわね」


 紅園は、ダーカーがこれから何をするつもりなのか分からず、つぶやく。


「暗闇を泳いで、私の目玉につかまるといい。私の力を見せよう」


 黒瀬たちは、お互いに見合うと言った。


「やってみるか」


「そうね」


 黒瀬たちは暗闇を泳いで、ほのかに輝くダーカーの目玉の後ろに、両手で掴まった。


「二人とも、私の目玉に捕まったようだな。では、さっそく始めるとしよう。瞬間移動を」


 ダーカーはそう言うと、暗闇の底の方に視線を向ける。


 瞬間移動だって……。


 1億5千万キロメートル先の果てに、瞬間移動できるってことなのか。


 何だか、想像がつかないな。


 瞬間移動と言っても、黒瀬はどうやって移動するのか想像ができなかった。


「私が瞬間移動を使う間、必ず私の目玉に捕まっていている必要がある。絶対に手を離してはならぬぞ」


 ダーカーは、黒瀬たちにそう忠告した。


「もし……もし、手を離してしまえば、どうなるんだ?」


 黒瀬は、恐る恐るダーカーに問いかけた。


「手を離せば、この暗闇のどこかの空間に投げ出されてしまう。そうなれば、いくら私でも、助けに行けなくなる。つまり、暗闇の中、一人、孤独に死を待つことになるということだ」


 暗闇に投げ出される。


 ダーカーのその言葉が黒瀬たちにやけに不安にさせた。暗闇の中で一人死ぬのを待つ。それほど、恐ろしいことはなかなかない。


 黒瀬は、胸に不安をかき消すように言った。


「分かったよ。手を離さない、絶対に。僕たちを連れて行ってくれ!コアのある1億5千万キロメートル先へ!」 


 紅園も黒瀬に続いて言った。


「私も心の準備ができたわ。行きましょう!」


 二人とも、不安を抱きながらも、コアのあるところまで行くことを決心した。そんな二人の様子を見て、ダーカーは、叫んだ。

 

「良かろう、ならば、さっそく向かうぞ!しっかりと掴まっていろ!」


 ダーカーの叫びとともに、周囲の漆黒に染まった空間が、一瞬で、真っ白になり、黒瀬たちは1億5千万キロメートル先へワープする。


 なんだ、変な感じだ。


 僕たちが動いているというよりかは、周りの空間が動いているような感じだ。


 黒瀬は、投げ出されないようにダーカーの目玉にしっかりと掴まり横を見て紅園に話しかけた。


「朱音……えっ……いない」


 黒瀬が振り向いた先には、横にいるはずの紅園の姿はなかった。彼女がいない状況に、一つの可能性が黒瀬の頭を過る。


 もしかして、紅園は手を離してしまったんじゃないだろうか。


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