15_巨体蠢く

 ダーカーは、身体を変形させて異形の姿へと変貌へんぼうする。芋虫いもむしのような胴体どうたいに、無数の細長い足が、生える。


「やばそうな見た目になったじゃない」


 紅園は、恐ろしげなダーカーの姿を見て言った。


「朱音、来るぞ!!」


 黒瀬は、ダーカーの放つ殺意とわずかな挙動を感じ取り、紅園に言った。その直後、芋虫型のダーカーは、無数の足を動かす。二人を丸ごと飲み込めるくらい大きく口を開け接近してくる。


 ダーカーの巨体が、咲き乱れる花を舞い上がらせ、地面を穿つ。


「うがぁががががががががが!!!!」


 ダーカーの強烈な叫び声が周囲の大気を激しく揺らす。あまりの迫力に、黒瀬たちは、身体が硬直しうまく動くことができない。


 このままだと、衝突する。

 このままだと、衝突する。


 二人とも、身の危険を感じたが、気付いた時には、目と鼻の先までダーカーが迫っていた。


「意識を集中しろ。お前に死んでもらっては困る。地面の影を滑って移動するイメージをしてみるといい。素早く移動できるはずだ」


 黒瀬は、自分の影から聞き覚えのある声がした。


 この声は、精神世界で聞いた玉座に座る男の声……。


 一瞬、そんな事を考えたが、黒瀬は気持ちを切り替えた。言われた通り、影を滑るイメージをしてみる。すると、靴底に見る見るうちに影が宿り、氷の上を滑るようにすいすいと移動できるようになった。


 滑れた。影力を使えば、こんなこともできるのか……。


「ありがとう。玉座の人」


 黒瀬は、自分に話しかけてきた玉座の人物に感謝の言葉を呟く。


 この力を使えば、迫りくるダーカーを回避できる。でも、紅園が……。自分だけ助かっても意味がない。やるか、やるしかないか。


 黒瀬は、拳を握りしめると、靴底に影をまとったまま地面を軽やかに滑る。瞬時に紅園の元まで素早く移動すると、即座に彼女を抱き抱える。


「ちょ、ちょっと、ええ……」


 突然、黒瀬に抱き抱えられた紅園は顔を真っ赤にさせる。黒瀬は、構わず、顔を真っ赤にさせた彼女を抱き抱えながら移動する。


 ダーカーがすぐそこまで来ている。間に合わないか……。いや、諦めない!


 黒瀬は、ダーカーの衝突を回避することだけに集中し、全力で回避しようとする。


「間に合ぇえええええ!!!」

 

 黒瀬の叫び声が響いた直後、ダーカーの巨体が、黒瀬の背後はすさまじい轟音ごうおんを立てながら勢いよく通り過ぎていく。


 なんとか、回避できた……。


 黒瀬は、紙一重のところでなんとか迫りくるダーカーの巨体を回避していた。少し遅れれば、ダーカーの巨体に衝突し、踏み潰されていた。


「な、なに……避けられた!!!」


 ダーカーは、黒瀬たちに避けられ驚いた様子だった。巨体がゆえに、加速した身体をすぐに止めることはできない。加速した勢いのまま、近くの木々に衝突する。


 木々は激しい音を立てて次々と倒れていき、隠れていた小鳥たちが鳴き声を上げて日の光が漏れる曇天どんてんの空に向かって一斉に飛び立つ。

 



 

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