第6話 大馬鹿者

 勇気を出したご褒美かもしれない。散っていく桜はとても綺麗で、私は勇作に負けないような素敵な顔で笑えたに違いない。


(違いなのに・・・・・・)


 視界がぼんやりする。目頭が熱くなって、目尻から涙がツーっと頬を伝った。


(でも、言えたんだ、私・・・・・・)


 私は袖で目を拭く。何で泣いているのか聞かれたらどう答えようと考えながら、気持ちが高ぶり過ぎて考えがよくまとまらない。


(えっ)


 私は腕が掴まれた思考が止まる。顔を上げると、勇作が少しムっとしたような顔で私の腕を掴んでいた。


「嘘じゃ」


「えっ?」


「本当は、父上のお許しなんて出とらん。父上は故郷に帰るのを許さんのじゃ。じゃが、ここに来た」


「そう・・・・・・なの?」


 今の私にとってはそこまで重要なことではないので、きょとんとした顔で勇作を見ていると、


「ああああっ、鈍感な女じゃのう。お前じゃっ、お前っ」


「わたし・・・?」


「お前の見合い話をぶっ壊しに、来たんじゃっ。父上に勘当されるの覚悟でっ!!」


「ばっ・・・・・・・・・」


 開いた口が塞がらなかった。


「ばっかじゃないのっ!!?」


 自分の死んでもいいような人生なんてどうでもいい。それよりも順風満帆に進んでいた初恋の相手がここに来て、私に嫌がらせをするため(?)なのか私のために人生の階段を踏み外したなんて、呆れて暴言しか言えない。


「そうじゃ、馬鹿じゃ!!! 何もかも捨てでも、梅子っ!! お前を選んでしまう大馬鹿者が俺じゃ!!」


 そう言って、私を強く抱きしめる勇作。


「梅子・・・・・・梅子・・・・・・・・・梅子・・・・・・・・・・・・」


 私を感じるように何度もぎゅっぎゅっと抱きしめてくる勇作。

 それは、痛くて、苦して、熱かった。でも、とても嬉しかった。

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