第7話 桜折る馬鹿が捨てる物
「本当に・・・・・・馬鹿よ・・・・・・っ」
私たちは桜の木の下でそっと手を重ねて仲良く座った。
なぜ、今日に限って来たかと言うと、どうやら妙ちゃんが手紙を勇作に送ったらしい。本当に妙ちゃんは感謝だ。ただ、私が勇作のことは忘れたと彼女に嘘をついていたのもいけないのだが、妙ちゃんは私よりも勇作のことを知っていて、妙ちゃんの家の方がうちよりも情報網に長けているとは言え、妙ちゃんだけ勇作の住所が知っていたのが少し悔しかった。
「ああそうじゃ、俺は桜を折ってしまうくらい馬鹿じゃ」
「そっちじゃなくて・・・・・・って、あーーーっ、やっぱり桜を折ったのね」
私が勇作を見ると、目のあたりを少し赤らめていた勇作がいたずらっぽく笑っていた。私は「もうっ」と言って、そっぽを向くと、勇作が重ねた手を今度は指を絡めてきた。
「梅子の誕生日が近かったじゃろ、だから、プレゼントしたいと思ったんじゃ」
嬉しくて、握った勇作の手をぎゅっとしてしまった。すると調子に乗った勇作は私の太ももにもう片手を置く。
「梅子っ」
勇作に呼ばれて、返事をしてしまえば、さらに調子を乗ると思ったし、返事をせずに恐る恐る勇作を見ると、勇作は真面目な顔をしていた。
「・・・・・・何よ」
「ずーーっと、ずーーっと、梅子のことが好きだった。俺と一緒になってくれっ」
その言葉はとても嬉しかった。
でも、どんなに子どもっぽくても私も、もうお見合いをするくらい大人だ。心に身を任せてその言葉に返事をするには不安も大きかった。
「私、お見合いを逃げ出してここにいるの・・・そのうち探しに来るだろうし、家のことが・・・・・・それに、勇作。貴方の家だって・・・・・・大丈夫なの?」
そう言うと、勇作は暗い顔になった。私よりも賢いはずの勇作が・・・・・・。本当に桜を折ったせいで馬鹿になってしまったのだろうか。
「俺はおそらく・・・・・・家から絶縁されるじゃろう。だから、裕福な暮らしを保証することも・・・・・・できん。それに、梅子のお父さんやお母さんのことは・・・・・・」
(それでも・・・なのね)
私は持っていた桜の枝を見つめる。
本当に勇作は全てを捨ててでも私を選びたいと思ってくれたのだ。私は知っている。勇作が持っていたものを。学があり、財産があり、名誉があり、夢があり・・・・・・それらを捨てでも私を選んでくれたのだ。
「駆け落ち・・・・・・しよっか」
私は桜の枝を握り締めて、呟いた。
「梅子・・・っ」
唇を震えさせて、今にも泣きそうな勇作。
私は勇作にだけ悲しい思いと、罪を背負わせてはいけないと思った。
「ねぇ、どこかに家を建てることができたら・・・」
「できたらじゃない。絶対建てられるように、俺は絶対頑張る」
「ありがとう、勇作・・・・・・。その時は、この枝を家の庭に植えましょう」
「・・・・・・あぁっ」
勇作と私は笑顔で抱き合い、自然とお互いの顔を再び見つめ合い、そして顔を近づけ、瞼を閉じ―――
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