第3話 超級剣士第七位の男
『魔術』がまだ無かった頃、ラズア大陸の貴族達はその覇権を巡った争いを長きに渡り続けていた。
その戦乱の時代に終止符を打った人物――『魔術』の創始者ソフィア・ザタニア。
ザタニア侯爵家は圧倒的
その後『魔術』は世に広まり、ソフィア・ザタニアは後に『大聖女』と呼ばれるようになった。
そんなザタニア侯爵家による王政は千六百年後のヴィルドレットがよく知るあの時代でも尚続き、ラズア王国は世界有数の大国となった。
まさに、ラズア王国の歴史は『魔術』によって成り上がったザタニア侯爵家の歴史とも言えよう。
しかし、その裏には『
◎
「はい? 何ですか?その『
この時代へ来てからシャルナのこの疑問を浮かべた表情を見るのは一体何度目だろうか?とヴィルドレットはふと思う。
彼女から見たヴィルドレットはまさしく不審人物だろう。一度は『敵』とさえ判断され、その時にした弁明も意味不明で受け入れ難きものだったはず。
しかし、シャルナはそんな信頼度ゼロのヴィルドレットの弁明を受け入れ、更にはヴィルドレットの求める情報を素直に提供する。
一方、ヴィルドレットの言動の中にはシャルナの信頼を得るものは無く、逆に不信を募らせるものばかりだ。
己を信頼しようとするシャルナへ向けた自己中心的なこれまでの言動にヴィルドレットは懺悔の念を抱きつつ、これからは彼女の信頼を勝ち得る努力をしようと心に決め――
そしてヴィルドレットは目の前で疑問の表情を浮かべるシャルナへ、己が一体何者で、どういった経緯で
「『
「えぇ。」
「……信じられないかもしれないが、俺は今から千六百年後の正暦二千十五年から今の時代へ転移してきた……みたいなんだ。」
意を決してのヴィルドレットの告白。しかし、シャルナはそれを、
「あははは!!面白い冗談ですね!」
と、笑い飛ばすが……次瞬間にシャルナの視線はヴィルドレットの背後へ外れ、その笑顔も一変する。
「またあなたですか!!」
シャルナが眉間に皺を寄せ、憤った口調で言い放った刹那、ヴィルドレットは己の後方を振り向く――
「――おや?君もシャルナ様の力に興味があるのかな?」
振り向いたヴィルドレットの視線上――こちらへ歩き寄る人影。
「誰だ!?お前!!シャルナに一体何の用だ!?」
「――ミグルド・
「――――」
ヴィルドレットの問い掛けに答えたのはシャルナだ。しかし、その答えにヴィルドレットは沈黙する。
「ほう。やっと覚えて頂けましたか! なんと素晴らしい! ところで、君は誰かな?そこをどいてくれないか?」
こちらへ近づくにつれてミグルドのその容姿がはっきりと見えてきた。
仕立ての良さそうな白の騎士服を纏い、腰には剣を携え、長い金髪を後ろで束ねた男の年齢は二十代半ば程でヴィルドレットよりも体格が良い。
「もう一度言う。そこをどいてくれないかな?」
「――嫌だ。」
「ならば、致し方ない。消えてもらう」
ミグルドはそう言うと剣を抜いてヴィルドレットにその刃を向ける。
「抜きたまえ。君も剣士なのだろう?」
「――――」
「ヴィルドレットさん!逃げて下さい!その人は超級剣士です!勝てるわけがありません!」
シャルナの声掛けにヴィルドレットは応じず、無言のままシャルナの前に立ち、剣を抜いた。
「え? あの、まさか戦う気じゃ……」
ヴィルドレットの行動に驚くシャルナ。そして、そんなシャルナを背にヴィルドレットは口を開く。
「当たり前だ。惚れた女を守る絶好のチャンス。それを君は捨てろと言うのか?」
「……え?」
ヴィルドレットの言葉に顔を真っ赤に染め上げるシャルナはヴィルドレットの背中の陰に、その身を小さくして隠れる仕草を取った。
「後悔しても知らないよ? もっとも、後悔する時には君はあの世にいるだろうけどね」
「……たかが、超級第七位の分際で偉そうにすんな。見てるこっちが恥ずかしい……」
ヴィルドレットのこの言葉の次の瞬間、憤怒の表情で斬り掛かるミルグドだったが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます