第4話 超級剣士同士の戦い

 超級剣士 序列第七位。ミグルド・ハンス伯爵――


 彼の持ち味は『圧倒的パワー』である。


 本来であれば彼のそのパワー長所を活かし、リーチ力に長けた大剣を使用したいところである。だが、彼はその利点を放棄。


 己のパワーに対して絶対の自信を持つミグルド。しかし、いつだってその手に握る剣は通常サイズだ。


 これまで、相手がどんなに力自慢であろうと(大剣を持った相手も含む)刃同士を交えた時に押し負けた事など一度も無い。それどころか、剣ごと相手を断ち斬る事もしょっちゅうだ。(大剣を持った相手も含む)


 では、そんなミグルドが大剣を手に持った時、その時の列度は如何程のものだろうか。

 無論、測りだろう……そう、文字通りである。測った事が無い。

 ミグルドは大剣を手にした事が無いのだ。いや、正確には大剣を扱う気が無い。つまり、大剣に興味が無いのだ。 


 

 その理由はミグルドの戦いにおける、その固定観念にある――


『――力が強いからってなんだって言うんだ。幾ら強力な剣撃が出来ても当たらなければ意味が無い。


 皆からは大剣を使う事を薦められるが、『速さ』を欠落させる大剣などまさに笑止千万!


 戦いにおいて最も必要なのは『パワー』では無く、『速さ』だ!『速さ』こそが全てである。


 敵に対して常に先手を取り、回避不可の神速剣を振る。 そして、素速い身のこなしで敵の攻撃を無効化――まさに『速さ』こそが最強である!』

 

 そんなミグルド、『速さ』においてはそれほどで、超級剣士第七位に選出された理由もやはり、その『圧倒的パワー』が評価されてのものだった。

 


 ◎



 ヴィルドレットの脳天目掛けられたミグルドの刃は縦一文字に突き進む――


 背後にシャルナを置くヴィルドレットにその刃を回避する選択肢は無い。故に己の刃でそれを防ぐ。


 ガギィーーン!!


 十字に交わった刃と刃。


 早速ミグルドの真骨頂が発揮される場面。この状況下からミグルドは負けた事が無い。が、しかし――


「へぇ。なかなか良い振りしてるじゃん」


 声の主はヴィルドレットだ。


 一方のミグルドは何故かその表情を強張らせる。


「――ま、まさか」


 ミグルドの『圧倒的パワー』に対してヴィルドレットの剣が全く後退しないのである。

 かつて無い経験に信じられないと言った様子のミグルド。


「しかし、この程度で超級剣士とはね……この時代の剣士は大した事無さそうだな」


 ヴィルドレットはそう言うとミグルドの刃を押し返した。


 逆にヴィルドレットの剣に弾き返されたミグルドは大きくよろめく。ヴィルドレットはそんなミグルドへ向かって、


「――来いよ。」


 と、逆手にした人差し指を突き出し、クイクイッと動かし挑発する。


 それに対して激昂したミグルドは重い剣撃を乱れ撃つ。


 憤怒の表情で一方的に攻めるミグルドに対して防戦一方のヴィルドレットはその表情に余裕の笑みを浮かべる。


 二人の超級剣士がぶつかり合う衝撃音は凄まじく、その轟音が静寂な海辺に響き渡り、その状態がしばらく続くとヴィルドレットが一言呟いた。


「うん。飽きたし、もういいかな?」


 刹那、ミグルドの剣が止まる。


 剣を振りかぶった状態のまま微動だにしなくなったミグルド。

 表情は青ざめ、眼球だけを動かしその視線を少し下へやると、そこにはヴィルドレットの剣先が煌めいていた。


 まさに『神速剣』――ミグルドの追い求めるそれだ。 いや、厳密には違うのかもしれない。何故ならミグルドの追い求める理想の『神速剣』よりも現実に見せつけられたヴィルドレットの『神速剣』の方が遥かに速かったのだから。


「僕の負けだ。れ」


「まぁ、そうだな。同じ剣士だし、気持ちは分かるよ」


 そう言うと、転移する前のあの時代にて『終焉の魔女』に敗北した時の事を思い出すヴィルドレット。


「――覚悟はいいか?」


「あぁ、一思いにやってくれ」


「――ちょ、ちょっと待ってッ!!」


 シャルナの叫びが静寂な海辺に木霊した瞬間――


 ドスッ!!


「――――」


 ヴィルドレットは剣の柄の部分でミグルドの腹部を強打。

 ミグルドは気絶して地に崩れ落ちた。


「き、気絶した……だけですよね?」


 倒れたミグルドを横目にシャルナはヴィルドレットへ尋ねる。

 それに対してヴィルドレットは「あぁ」とだけ返してからその後更にシャルナへ聞こえない程の小さな声でボソリと呟く。


「――御先祖様を殺すわけにはいかないからな……」

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