第2話 『魔術』と『魔法』

「……あの……言ってる意味が分からないんですけど?」


 そう口にするのはゲンナリとした表情のシャルナだ。


「あ……あぁ、すまない……長年の夢が叶うと思ったらつい舞い上がってしまった……」


「また、変な事言ってますよ?」


 シャルナからすれば全く意味不明のヴィルドレットの言動の数々。しかしながら多少なりとも耐性がついてきたようで少しだけ笑みが戻ってきようだ。苦笑いだが。


「あと、いきなり『君を幸せにする』なんて言われても私、困りますよ?」


 シャルナはヴィルドレットの鼻の先をツンと人差し指で軽く突くと更に、


「……まぁ、悪い気はしませんけどね!」


 と続けてからニコっと愛らしい笑みを浮かべるシャルナ。ヴィルドレットはそんなシャルナの笑顔に思わず顔を背ける。


「――――」


 しかし、そんな照れるヴィルドレットをよそにシャルナは突然真剣な表情に切り替えると、真面目な口調で再び口を開く。


「それはそうと――、あなたは一体何者なんですか?」


「……あ、あぁ。俺か……俺は……」


 一体どこから説明すればいいのだろうか?そもそも、言ったところで信じてもらえるだろうか?

 ただでさえ、不審人物として見られているだろうに更に拍車を掛かるような事を言う必要性があるのだろうか? ――と、ヴィルドレットは思考を巡らせ、その結果出てきた言葉が……


「君は俺の事を知らないだろうけど、俺は君の事を知っている。ずっと前から……」


「――ッやっぱり!!」


 ヴィルドレットの『前から知っていた』発言に反応して、咄嗟にヴィルドレットから距離を置くシャルナ。


「あなたどこの国の者ですか!?」


 穏やかな表情は一変、激しい剣幕で問いただすシャルナ。


「え?」


 その突然の変わり様に驚きながらも必死に弁明しようとするヴィルドレット。


「――いや!待て!!ちょっと待ってくれ!!」


「御託は結構です。私を捕まえに来たんでしょ!?この力を欲して。」


 そう言ってシャルナは掌をヴィルドレットへ向けると、その掌に白い光を纏わせる。


「――違う!!頼むから話を聞いてくれ!!君は何か誤解している!!」


「――――」


 ヴィルドレットの必死の様子が功を奏したのか、シャルナは掌の動作を中断。


「……まぁ、そうですね。どんな言い訳か、聞くだけ聞いてあげます。それにあなたが一体何者で何の為にこの力を欲しているのかも知りたいですし」


 ヴィルドレットの弁明に耳を貸すシャルナ。

 しかし、向けられた掌には未だ白い光を纏わせ、『終焉の魔女』を知るヴィルドレットはその掌から言いようの無い恐怖を覚える。


「――で? どんな言い訳をしてくれるんですか?」


「……俺は……君の事を知っている。しかし、君の事については全く分からない!」


「は?何を言ってるのかさっぱり分かりませんが?」


「……そうだな。俺自身、何と言っていいのか分からない。でも、ただこれだけははっきりと言える。 俺は君の敵ではない!俺は今、君の為だけに存在している!」


「……相変わらず何言ってるのかさっぱり分かりませんね。」


 シャルナはそう言うと少し悩んだ表情を浮かべた後、向けていた掌を下ろした。


「――まぁでも、信じてあげます。嘘はついて無さそうですし。本当に私のこの力を欲しているわけでは無いのですね?」


「あぁ。その通りだ」


 シャルナの誤解を解いた事にほっと胸を撫で下ろすヴィルドレット。ただ、ヴィルドレットの弁明のどこに誤解を解く要因があったのかはいささか疑問だ。


 ともあれ、ヴィルドレットはシャルナの発言の中で気になった事について問い掛けた。


「それで君がさっき言っていた事だが、君は何者かに追われているのか?」


「……そうです。私には不思議なカが備わっていて、その力を欲した者達に私は追われています」


「不思議な力って『魔術』の事か?」


「魔術? 私のこの力は『魔術』と言うんですか?」


「君は『魔術』を知らないのか?」


 ハテナ顔のシャルナにヴィルドレットはふと、『魔術』の起源について思い出す。


 『魔術』の起源は、ヴィルドレットが命を落としたあの時代から約千六百年前『魔法使いオリジナル』と呼ばれる者に発現した力を元に編み出された『術』と言われていた。


 更にヴィルドレットは『終焉の魔女』としてのシャルナと相対した時に彼女が口にしていた『魔法』という単語を思い出す――


 ヴィルドレットはその時には特に『魔法』とは『魔術』の事だろうと気には留めていなかったが、『無詠唱』という『魔術』では考えられない過程を辿っていたそれはもはや『魔術』とは言い難い。


 そう考えれば『魔術』=『魔法』というのは単なるヴィルドレットの思い込みという事で、『魔法』は『魔術』より上位に位置する存在という仮定が成り立つ。


 そして、それを操る者に対する更なる可能性――


「まさか……君が『魔法使いオリジナル』?」

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