第7話 魔法武器の性能試験

「マスター。朝じゃぞ。そろそろ目覚めるのを推奨するのじゃ」


 人造精霊の声で、インフィは目を覚ました。

 目を開けると、モフモフの白い小型ドラゴンが飛んでいた。


「おはようございます、アメリア」


「うむ。おはようなのじゃ、マイ・マスター・インフィ」


 インフィはベッドから這い出す。

 ここは王都の安宿屋だ。

 昨日、ジェマとフローラと一緒に冒険者ギルドにヴィント盗賊団を名乗る四人を連れていった。四人が本当にヴィント盗賊団なのか尋問するので、懸賞金の支払は待って欲しいと言われた。


 それから魔法剣を買って欲しいと提出したら、それも性能試験をしないと買取り金額を出せないので、改めて来て欲しいと言われてしまった。

 まあ、偽物と決めつけられるよりはいいだろうと納得し、こうして冒険者ギルド近くの宿で一晩過ごしたわけだ。


インフィは冒険者ギルドに顔を出す前に、古道具屋に寄った。先日の失敗を繰り返さないため、ガラス瓶が欲しいのだ。しかし丁度よさそうなのが見つからない。一番近いのは、哺乳瓶だった。


「ま、とりあえず、これを買っておきましょう」


「哺乳瓶でポーションを飲まされる奴は、情けない思いをするじゃろなぁ」


情けなくても怪我を放置するよりはいいだろう。

 ようやくポーションを入れる瓶を手に入れ、インフィは満足した。そして冒険者ギルドの建物裏にある訓練場に行く。そこには昨日対応してくれた受付嬢と、ジェマとフローラが待っていた。


「実は昨日、インフィが帰ったあと、性能試験役を頼まれてね。私もインフィが持ち込んだ魔法剣に興味があった。この手で確かめられる上に、ギルドの正式な依頼だから報酬をもらえる。引き受けない理由はない」


「なるほど。では、よろしくお願いします」


 ジェマは魔法剣を構え、木製の人形に斬りかかった。

 もちろん一太刀で真っ二つだ。


「ふふ。さすがはジェマさん。素晴らしい一撃です……と言いたいところですが、ちょっと、いつもより前のめりになっていましたね。剣の重量バランス、駄目ですか?」


 受付嬢はメモを取りながら尋ねる。


「いや……この剣が駄目なのではなく……むしろ凄すぎるんだ。あまりにも切れ味がよすぎて、人形を斬るときに抵抗を感じなかった」


「抵抗がない? そんな馬鹿な……いくら木製とはいえ、大人と同じ大きさの人形ですよ」


「そう思うなら、君がやってみろ」


「いえ……私は職業柄、人の技の批評はできますが、自分で武器を持つのはちょっと……」


 受付嬢は困り顔を浮かべる。だがジェマが真剣な様子で魔法剣を差し出すので、受け取った。そして「えいっ」といかにも素人くさい動作で、二体目の人形に振り下ろす。

 真っ二つであった。


「そんな……本当に抵抗がありませんでした!」


「ねえ、あたしにもやらせてぇ」


 フローラは、すでに脳天から割られている人形の腹に、一文字斬りをいれる。


「あらあら! 本当に空気を斬ってるみたい! あたし、一流の剣士になった気分だわぁ」


 それから職員が、フルプレートアーマーを着た人形を用意した。

 ジェマはそれも真っ二つにする。

 斬ったあと、魔法剣を見つめ、なにやら感動した様子でプルプル震えた。


「インフィ! この魔法剣、ギルドではなく私に売ってくれ!」


 ジェマはインフィの肩を掴み、大声を出した。


「えっと。私は構いませんが、冒険者ギルド的にオッケーなんですか?」


 インフィは受付嬢を見る。

 

「問題ありません。ただし魔法武器は治安維持のため、可能な限り、冒険者ギルドがその所在と性能を把握することになっています。その書類手続きの手数料はいただきます。中間搾取と思われるかもしれませんが、国と連携して行っていることなので……フルプレートアーマーが一つ、駄目になっていますし……」


「なるほど。ではジェマさんに売ります」


「ええ、いいなぁ、いいなぁ。あたしも魔法武器が欲しいわぁ」


 するとフローラが心底から羨ましそうに言う。

 確かに、コンビなのに片方だけが魔法武器を装備しているのはバランスが悪い。

 そこでインフィは、フローラのために魔法弓を作ることにした。

 素材とするのは、やはり魔王城で見つけた弓。零敷地倉庫ディメンショントランク内部で『射程距離向上』『威力向上』の魔法を付与する。


「じゃじゃーん。我が家に伝わる魔法武器には、実は弓もあったのです。フローラさん、これの性能試験をお願いします」


 精霊の力で物を出し入れできるという言い訳を獲得したインフィは、堂々と魔法弓を出現させた。

 それを受け取ったフローラは、フルプレートアーマーに矢を放つ。


「ちょ! 貫通して壁に刺さっちゃったんだけどぉ!? もっと離れて撃てば……威力が変わらない! ってか、狙い通りに飛ぶんですけどぉ? 弓の癖とか把握してないのに、ど真ん中に命中しちゃうわぁ。もっと試さなきゃ……インフィちゃん、あたしに売って!」


「毎度あり、です」


 そして魔法剣と魔法弓を、まとめて値段交渉。

 なんと、一年くらい遊んで暮らせるような値段を出してくれた。

 正直、ありがたいを通り越して申し訳ない。剣も弓も、千年前の水準なら、ようやく魔法付与の入門者を脱したかという程度の代物だ。これで金を取ろうというのが、とんでもない大罪に思えてくる。

 ところがジェマとフローラは「こんなに安くていいの!?」という反応をしてくる。


[どうなんですか、アメリア。ボクはもっと安くてもいいんですけど]


[いや、相場を考えると、この二倍でも売れるはずじゃ。とはいえ大金じゃから『買いたい』という者を見つけるのが大変。昨日の武器防具屋も、魔法武器の在庫を二本も置く余裕がない、というような話をしていたし。ここで売るのが無難じゃろ。それにジェマとフローラとの関係を深めるのは、損にならんと思うしのぅ]


 アメリアは計算高いアドバイスをしてくれた。

 そんなものか、とインフィは頷き、値段交渉を終わらせた。


 しかし、立て続けに二つの魔法武器を作って人に使ってもらったが……実に楽しかった。作ることそのものも、それで誰かが喜んだり驚いたりするのも、全て楽しい。

 たんに知識と技術があるというだけでなく、性分に合っている気がした。


 そしてインフィたちはギルドの建物に移動し、事務手続きを済ませる。


「おめでとうございます。これでジェマさんとフローラさんも、いよいよ魔法武器の所有者ですね。ところで……昨日、連れてきた四人。やはりヴィント盗賊団の残党で間違いないようです。懸賞金をお支払いします。それと、残党の本拠地を吐かせました。そこを強襲してもらえないでしょうか? 手加減の必要はありません。リーダーの身柄を確保していただければ、生死問わずデッド・オア・アライブで報酬を支払います」

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