犯人の自白①

「何から話しましょうか。まあ理由は復讐です。俺小学校と中学校時代いじめられてたんですよ。今とは見た目は真逆なくらい暗くて地味だったので。殺された奴らは変わった俺に全員気づいてなかったけど。だから殺しやすかったですね。佐藤は小学校時代、高橋と塩見と三森は中学校時代。本人たちは黙ってましたけど、高橋と三森は当時付き合ってましたよ。塩見と三森ももちろん知り合いです。三森、あいつ大人ふりして顔は綺麗だからモテるし人気だし、その分イジメは陰湿で1番楽しんでましたよ。俺の金はよく盗むわ、俺のものはよく盗んで壊すわ、椅子と上履きの中に画鋲大量に置くわで。」


「じゃあ管理人は。」

自分はそう聞いた。


「小学校時代、佐藤ともう1人の主犯格のいじめっ子の父親ですよ。当のいじめた本人は残念ながらもう殺したので。管理人はそのことまだ知りませんけどね。この管理人も三森みたいなもんです。大人しく見えてやることがひどい。自分の娘のためか知らないけど娘守るために必死にかばって嘘でもなんでもでっちあげて。最初にいじめてきたのは俺だとかね。学校もそれに騙されて。結果俺が転校することになって。」


「なんか、恨みを持っているようには見えない口調ですね。落ち着いてるというか。淡々としているというか。」

飯田さんがそう言う。


「まあもう復讐済んだんでね。清々しい気持ちでいっぱいですよ。」


「でもお前は変わったんだろう。この数日しか知らないがその性格は演技ではないだろう。変われた後は楽しかったんじゃないのか。」


「もちろん。人生って悪くないなって思いましたよ。みんなに信頼されたり、単にモテたり。なんか色んなことに意欲が湧いて努力もできて。そしたら良い結果もいくつか出ましたしね。」


「じゃあ今更なぜだ。もう昔のことじゃないか。」

自分は納得できずに何度も食い下がった。


「あなたは知らないんですね。いくら今が幸せでも過去は消えない。永遠にトラウマとしてまとわりつく。まあおかげで人に優しくなれたりはしますよ。」


「そう思えてるならなおさらじゃないか。今また復讐を果たせても、彼らを殺したことであなたはおそらく死刑になる。これから先はきっと良い人生が待っていたでしょう。なぜ自分から地獄に落ちたんですか。」

飯田さんも納得がいかないようだ。


「はは…。知りません。まあここの感情は俺と同じ経験をした人ならわかってくれるんじゃないですかね。」


「まあいい…。次はあのテロリストだ。彼は平塚さんか。どうなんだ。」


「違いますよ。平塚さんは何も関係ありません。あれは最近の連れです。悪いですけどあいつは手助けしてくれただけで逃す気でいるんで。」


「でもあの声は管理人さんが平塚さんの声によく似ていたって。」


「機械を通した声が偶然似てたんじゃないですか。」


「いやそんな…。」

飯田さんも反論する。


「やめてくれ赤城。」


突然聞き覚えのない声と同時に食堂の入り口から1人の黒づくめの男が顔を見せた。

しかし今は顔は見えている。武装もしていない。


「…なんでここにいるんだよ。」

赤城が静かに怒りのこもった声で言う。


「みなさん、はじめまして。平塚です。大変お騒がせしました。」


平塚を名乗る男はそう言うと静かに深く頭を下げた。


「こいつは俺のこと庇おうとしただけです。俺はこいつが何をするのかわかって協力しました。でも俺が最初に姿を現した時、ほら、二人組が武装してそこの道の先にいたときことなんですけど…。あの時に持っていたのは麻酔銃でもう1人は俺の部下で、でもあいつはただ俺たちに利用されただけなんで、そこはよろしくお願いします。この島は意外と山や森に猪が多くて、たまに民家を荒らしに来るんですよ。だから俺とその部下は麻酔銃の免許を取ってて、そういう猪が現れるたびに捕獲して保護団体に引き渡してるんです。部下にも今日はこの旅館の管理人に頼まれてあの場所でしばらく見張りをすると騙して連れてきました。あの服はいきなり銃を持った男たちが現れても驚かないよう、島民に覚えてもらうためにいつも決まった服装をしているので、今日も同じように着ただけです。管理人にバレないか心配でしたが、この旅館周りに猪を狩りに来たことはないので、彼おそらく見るのは初めてだったんでしょうね。あのアナウンスもあってか、バレなくて良かったです。帽子はいつも被ってるんですがサングラスをかけるのを渋られて、暑さ対策とか色々言って無理やり付けさせました。まあ彼も事情聴取を受けることになるでしょうけど、犯罪はしてないので罪に問われることはないはずです。まあ申し訳ないことをしましたね。」


平気な顔をしてこの男は突然現れ、淡々と長々と喋り出した。犯人たちがここまで大掛かりなことをした割にはあっさりと認めすぎていないか。違和感しかない。


不思議ともう平塚と赤城がここで暴れ出す予感は無くなっていた。飯田さんと自分は、まだ赤城に刃先を向けてはいるものの、視線は平塚に向いており、特に何も警戒はしていない。


「みなさん固まっちゃいましたね…。とりあえず俺たち2人はもう逃げもしなければ誰も傷つけません。警察が来るまで絶対大人しくしていることを誓いますよ。」

平塚がそう付け加えた。


「あなたがこの事件に加担した理由はなんですか。」

純粋に疑問に思ったことを聞いてみた。


「あれ、あなたがもしかして東條さん?すみませんね、ちょっと仕事の時期がズレていればあなたを巻き込まずに済んだんですが…。俺は赤城に恩があるだけです。赤城と俺は同じ高校で、正直全く頭が良くない学校なんで荒れまくってたんですよ。俺は1年生になったばかりの頃からひどいいじめを受けてて、もう死のうと思ってました。でも2年生になった時に入学初日からずっと不登校だったこいつが突然学校に来たんですよ。それで俺がいじめられてるの見て、教室で怒り狂って。そしたらいじめてた集団もびっくりしたのか、そっからピタリといじめてこなくなって。段々こいつとも仲良くなって、最高の親友になりました。そのあとこいつの過去のいじめの話聞いた時は驚いたし、ますます分かり合えましたね。こいついないと今の俺はいないし、最初にこの計画を聞いた時はびっくりしたけど、理由聞いて何度も話し合った結果、俺はこいつの手助けをすることに決めました。他の人から見たらおかしいと思うでしょうけどね。」


「全く理解できない。」

正直に言った。いじめられていたことは辛い過去だと思うが、なぜこんな計画ができる。この復讐をしてなんになると言うのだ。なぜ自分の人生を無駄にする。


「…はは。まあですよね。あああと、もちろんテロはしてませんよ。この旅館限定ならしてますが。誰かが予想してた通り、アナウンスはこの旅館の前のスピーカーからのみ発信してるんで。」


「平塚…お前は普通の人生を」


「赤城、俺はもう犯罪者だろうが。今更こんなことしといて罪も償わずに生きれねえよ。俺が決めたんだ。文句言うな。」


赤城が諦めたように少し笑った。


なんなんだよこの状況は。気持ち悪い。


「お前ら。自分達が正しいみたいに話してるんじゃねえぞ。どんな過去があろうと何人もの命を奪って良いわけねえだろうが。お前らを人だとは認めないからな。」


「ええ。そう言われて当然ですね。俺はもう死を覚悟しています。」

赤城にそう返される。


「なんっにも思わないのね。こんだけ人を殺して、よくそんな平気でいられますね。悪魔よ…。」

橘さんは泣いていたが、その低い声にはこの上ない怒りがこもっていた。


「さっきから正直に気持ち悪いです…。人を殺して達成感を味わっているようだ。殺人犯に見えないその姿勢や言動がとにかく気持ち悪い。」

飯田さんもそう続いた。


その場にいたほぼ全員がこの気持ち悪さを感じていた。おそらく清野さんを除いて。


「…みなさん、私も同意見です。しかし所詮は普通誰もしない人殺しをこの短時間で何度も行った外道のこと。普通の感覚を持ってもらうのはあきらめましょう。私たちは他にも聞かなければならないことがあります。聞きたくはありませんが、まだ隠していることがないか、この事件の一連の流れを説明してもらいましょう。」

風間さんがそうまとめた。


「わかりました。」

話し始めたのは赤城だった。

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