素直すぎる気持ち悪さ

______東條目線


全員何も発さない。


それは犯人も同じだった。


やはり自分は合っていた。本当に彼だったじゃないか。しかしさすがに目の前で起きたことをすぐには理解できない。


管理人は言葉も発さず、ピクリともしない。即死だろう。


犯人もだ。こちらに背を向けたまま一向に動かない。手にはピストルを持ったままだ。


彼はこれからどうする。この後出来る限り暴れてここにいる全員を殺すか。


今までも緊迫していたが、そんなものは比にならない。命の危機がすぐそこまできている。全員動かず、警戒している。


目線も彼から離せないが、他の人たちからも感じている恐怖がよく伝わってきた。


「みなさん…。安心して。もう終わりだから。」

突然妙に落ち着いた口調で言葉を発した彼に、何人かがビクッと反応した。

そしてなんと彼は、ピストルを持ったままゆっくりと振り返った。

自分でさえ怖くて気絶しそうだ。女性陣は大丈夫だろうか。

特に犯人に好意があったように見える彼女は、今一体…。


「そりゃそんな反応になりますよね。はは。見てください。これ。」

そういうと彼はシリンダーの中が見えるようにこちらに見せてきた。

「もう弾はないんです。俺は捕まるつもりです。あなたたちに危害を加えるつもりはありません。殺したい人は全部これで殺しました。…こんな俺の欲求のために付き合わせてごめんなさいね。」


そう言って少し笑って見せるが、誰も警戒はとかない。


「…東條さん。みんな動かなくなっちゃったんで、あなたに仕切ってもらえませんか?あなたの名推理の通り、犯人は俺です!いやぁ、あんなすぐ当てられた時は焦りましたよ。」


「ふざけんじゃねえぞ。」

勝手にそう言っていた。自分らしくない言葉だ。

そのまま自分は怒りのまま立ち上がり、犯人目がけて走った。そして思いっきりぶん殴った。犯人は何も抵抗せず、一切避けなかった。


犯人は奥の壁に吹っ飛ぶ。同時に持っていたピストルも手から離した。それをすぐさま蹴飛ばす。こいつの仲間のテロリストを名乗るやつがもし隠れてて拾われても嫌なので、食堂の自分がいたあたりを目掛けて蹴飛ばした。


だいぶ荒立った息を落ち着かせる。

他の4人もピストルが離れたことで少し落ち着いたように見える。


「何か拘束できるものはないでしょうか。縄か何か。」

少し冷静になった飯田さんがそう言う。


「そうですね。拘束しないと全員落ち着かないですね。ここは自分が見ておきます。飯田さん、探してきていただけますか。」


「はい、隣のバックヤードに行ってみます。」


「ないですよ。残念ながら。」

犯人にそう遮られた。


「この旅館のことは調べ尽くしてあります。残念ながら、縄は使う時がないので、置いてないみたいです。」


犯人の言葉だ。信じていいのだろうか。


「あ、いや…俺も本当は皆さんの前で殺したくはなかったんですよ。でも、もうこうするしか思いつかなくて。例の侵入者の彼に頼んでもう一回バラけてもらっても、次はそう上手くいかないでしょうしね。でも本当に、絶対誰も危害は加えません。」


「飯田さん、キッチンの包丁を持っていただけますか。」

犯人から目を離さないようにしながら、飯田さんにそう頼む。


飯田さんは慌てながらもキッチンに来て、手前の引き出しから包丁を取り出した。


「自分はこれから彼に近づきボディチェックをします。もし彼が怪しい行動をすれば、その時はよろしくお願いします。」


理不尽すぎるお願いだ。しかし今は呑んでもらうしかない。


「わかりました。」


迷いなく近づき、彼のボディチェックを始めた。後ろから飯田さんが、包丁で彼を牽制してくれている。


「特に何も持っていないな。おい、立て。」


犯人にそう命令すると素直に従った。


「歩け。」

犯人にそう命じて、自分は後退りながら犯人に前へと進ませる。

犯人が蹴飛ばされて吹っ飛んだ所は壁だ。話をするには狭いし、女性陣3人からは何をしているか見えていないだろう。とりあえず全員から見える位置に移動する。


少し移動したところで、自分は飯田さんが出した引き出しから同じく包丁を出し、それを犯人に突き出した。犯人は2人から包丁で牽制されている状態だ。


その後犯人をキッチンから出るよう誘導する。そのまま食堂の1番端の椅子に座らせた。


両側から自分と飯田さんで包丁で牽制を続けている。


「そこまでされなくても、俺はまじで何もしないですよ。じゃないと全員の前で殺したりしませんって。」


「…あの。」

そう言い出したのは橘さんだった。

涙声だった。


「どうしても匂いが気になります。彼のことは見張りつつ、管理人さんを彼の部屋へ、また血も掃除したいです。」


「いやぁ、迷惑かけてすみません。ほんとここでヤる予定じゃ」

「あなたは黙って!」

橘さんがヒステリックに叫んだ。今まで一度もなかったことだ。


「では。すみません、風間さん。飯田さんと代わってもらえますか。残りの方で、國谷さんをお願いします。」


そう自分が言うと、慎重に風間さんが飯田さんと代わり、國谷さんが彼の部屋に運ばれた。

その後は血の掃除も行われ、特に何も起きなかった。


しかし清野さんは一切動かなかった。犯人から目が離せず何をしているのかはわからなかったが、おそらく放心しているのだろう。


飯田さんと橘さんで全てやってくれた。


作業が終わった後、再び風間さんと飯田さんが交代する。


一応やるべきことが片付いたところで、自分は遂に犯人にこう言った。


「全て話せ。殺した理由も。テロリストは何者なのかも。どうやってここまで過ごしていたのかも全部だ。」

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