生存者集合

彼女を殺したのは侵入者なんだろうか。

でもそしたらなぜ悲鳴が聞こえなかった?怖さのあまり声も出なかったということなんだろうか。


とりあえず今の時点では考えていても仕方がない。

他の人と合流するのが先だ。


「飯田さん。この後どうしますか。食堂まで行かなくても、中庭やゲームセンターも細かく見れば誰かが隠れているかもしれませんが。」

囁くような小さな声で飯田に私は問いかける。


「悩みますね。しかし、食堂まで行けば確実に誰かはいると思います。とりあえず食堂まで行ってみませんか。」


「わかりました。」


未だ橘は泣いている。しかし、少しは気持ちも治まってきたようだ。


食堂にドアはない。近づくにつれて中が見えるようになってきた。

外から見る限り誰も人はいない。


「清野さん。橘さん。食堂は誰かがいる可能性が非常に高いです。仲間なら良いですが、人殺しの犯人かも知れないし、侵入者かもしれません。十分に注意していきましょう。橘さん、落ち着いてきましたか。」


「大丈夫です。行きましょう。」

橘は未だ涙は出ていたものの、だいぶ覚悟が決まったような顔つきになっていた。


「では。食堂に入ります。悪魔でも絶対に気を抜かないように。」


飯田を先頭に食堂に足を踏み入れた。

中の様子を確認しながら少しずつ進んでいく。

しかしすぐに厨房の影からある人物が顔を出した。


全員がすぐに反応し、そちらへ向かって身構える。


「俺です。赤城です。皆さんご無事でしたか。」


「赤城くん…。」


3人とも一気に気が抜けて、安心した。


「この食堂にいるのは赤城さんだけですか。」


「はい。そうだと思います。逃げた時は俺も夢中だったので、よく覚えてないんですが、この物陰に隠れて以来、誰もここに来ていない事は確かです。」


「なるほど。」


ついに食堂にも侵入者が来ていないことがわかった。一体どこに消えたのか。


「皆さんは。どこにいたんですか。」


「私と橘さんは2階に逃げていました。橘さんによると2階に来たのはこの2人だけで他の誰も来ていないみたいです。」


「私は男湯のトイレに。あの混乱時以来、誰も近くを通ってないかと。」


「なるほど。私もすぐにこの食堂の今いた隙間に隠れていました。だいぶこちらに逃げてきた人は多かったのですが、食堂に入ってきたのは自分だけでしたね。私の記憶が正しければ、この隣の裏口に逃げた人が何人かいたかと。でもこの食堂含め前の廊下も特に誰もそれから通っていないです。」


「本当におかしいですね。侵入者が一度姿を見せて以来、誰の前にも現れていない。不自然ですね。」


「たしかに…。他には、他には誰か見つからなかったですか?」


「それが…三森さんが亡くなっていました。女湯で。」


「…そんな…。」


「まだ侵入者がどこにいるかわからない状態なので、三森さんのことも詳しくは調べられていません。まずは他にもはぐれてしまった人たちと合流したいと思いまして。」


飯田がそう続いた。


「確かにそうですね。今は死んでしまった人より、生きている人の安否確認をするべきですね。全員でまとまっていた方が安全でしょうし。」


「でもこれでだいぶ安心ですね。赤城くん。他の方も探しに行きましょう。」

私はそう呼びかける。

「そうですね。俺も一緒に探しに行きますよ。…それとも、橘さんとここで休んでいた方が良いでしょうか…?」


彼も橘が憔悴しきっていることにはすぐに気付いたらしい。しかしその気遣いも橘が断った。


「いえ。自分も全て同行します。ご心配おかけしてごめんなさい。」


もう4人まで集まったこと、誰も侵入者と接触していないことから、4人の間にも侵入者と出くわすことはもう無いだろうという希望が見えていた。4人ともだいぶ落ち着いてきている。


「赤城くんが見たっていう裏口に行ってみますか。」


「そうですね。こっちです。」


そういうと赤城くんは食堂から出てすぐ隣の扉を示した。

もちろん警戒して赤城くんが扉を開ける。鍵はかかっていなかった。


中に入るとそんなに広くないバックヤードが広がっていた。

突き当たりには裏の出入り口が、ここも狭い廊下に倉庫のように色々な備品が保管してある。

そして廊下の左側にドアがあった。


「ここが、管理人の國谷さんの部屋でしょうか。」

「おそらくは。俺がノックして呼びかけてみます。皆さん、何が起きても良いように警戒してください。」


少し緊張感が高まる中、赤城くんがドアをノックする。


「どなたかいますか。赤城です。清野さんと飯田さん、橘さんも一緒です。どなたかいたら開けてもらえませんか。」


中から返事はない。数十秒無言の時間が流れた。


しびれを切らして私も呼びかける。


「清野です。今みなさんが無事か4人で回って確認しています。どうか無事なら出てきてもらえますか。」


そう呼びかけると中から反応があった。


「國谷です。佐藤さんも一緒です。今開けますね。」


ものの数秒で扉が開いた。


「ごめんなさいね。誰が怪しいかわからないから、1人からの呼びかけじゃ信じられなかったのよ。赤城さん、お気を悪くされたらごめんなさい。」


「いえ、賢い判断だと思います。とにかく2人とも無事で良かった。」


「これであとは東條さんと風間さんだけですね。」

飯田がそう安堵する。


「えっと、、三森さんは。」


國谷はすぐに異変に気づいたらしい。


「残念ながら、女湯で誰かに殺されていました。」


「そんな…。」

佐藤の血の気が一気に引く。

佐藤は最初の頃に比べたら本当に元気がなくなった。だいぶ参っているのだろう。


「三森さんのことを調べる前に、まずは東條さんと風間さんを探しましょう。これだけの人数がいれば、ある程度何が起きても大丈夫かと。ですが、侵入者は銃を持っている可能性が高いです。全員で警戒していきましょう。」


赤城くんがそう呼びかけたものの、6人も人数が集まり、だいぶ全員安心していた。


「皆さんずっと4人で同じところに隠れていらしたのですか。」


「いえ、そういうわけではなくて…。」

私はそのままこれまでの流れを説明した。

まだ窓ガラスが割られていなかったことは誰にも伝えていない。知っているのは橘と私だけだ。

この緊張状態の中、さらに混乱を招かないよう全員が集まってから言うつもりだ。


「じゃああと調べられてないのは中庭とゲームセンターね。管理人さん、他に隠れられる場所はあるのかしら。」


「いえ、おそらくはそれ以外にないかと。」


「じゃあまず中庭から行きましょうか。」

赤城くんの呼びかけで私たちはまた動いた。


結論から言うと二人はすぐに見つかった。


風間は中庭の大きい岩の後ろから、東條はゲームセンターの機械と機械の間から出てきた。

2人にはこれまで通り、窓ガラス以外の経緯を説明し、無事に三森以外の全員が合流することができた。


「三森さんのことは本当に残念でしたが、また皆さんと合流できて本当に良かった。…非常に言いづらいのですが、三森さんを全員で見に行きませんか。この状況下で、何が起きているのか確認することはとても大事に思うのですが…。」


橘と風間は正直すでに生気を失いつつあったが、この赤城くんの提案には誰も反対しなかった。


さすがに8人もいるからそこまで怖くはなかったが、全員で警戒しながら女湯へと再び向かった。

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