侵入犯=?

「うっ、匂いがひどい。」

佐藤がそう反応する。

本当にその場に居続けられないほど匂いは酷かった。


「5分ほど状況を見たらすぐに場所を変えましょう。近づける人だけ近づいてください。」

赤城くんがそう指示を出す。


結果、私清野と赤城くん、東條と飯田、そして意外なことに橘で現場の状況を確認することとなった。


「あ。これ。」

飯田が何かに気づき指差す。


そこには何やら黒いまとまった物体が置いてあった。

「なんでしょうか。」

私はそう言いながら近づく。

恐る恐る触って確認すると、ビニール素材の薄いマントのようなものだった。ポンチョの様に上から被るようになっていて丈がとても長い。フードまでついている。

「うわっ。血が。」

一部分に血が付着していた。決して少量ではない。


「犯人がこれを着て彼女を刺したんでしょう。」

東條が静かにそう言う。


「そこ、ナイフが…。」

橘が声を震わせながらマントがあった場所を指差す。

そこには血がべったり付着したナイフ、また特に特徴のない黒い仮面に黒い手袋、また黒いハンカチも落ちていた。

マスクにも少し血がついている。


「犯人が犯行に使ったセット一式の様ですね。これが何か考えるのは後にして他にも何か犯人が残した痕跡はないか確認しましょうか。そしたらすぐまた場所を移動しましょう。」

ここで話したのは意外にも東條だった。

その後数分当たりを見回したが、他にはおかしなものはなかった。


「こんなもんですかね。食堂に移動しますか。」


全員すぐに移動を開始した。


食堂に着くと、さすがに嫌な血の匂いは届いてこず、全員の気分が少し安定してきた。

多少休憩した後、また話し合いが始まった。


「そろそろ起こったことを整理しましょうか。私たちは銃声をこの場で聞いた後、食堂とは反対側の1階あたりからガラスの割れる音を聞き、安全な場所へ移動しようとしたら階段の辺りでちょうどバックヤードから出てくる侵入者と遭遇。各々必死で逃げた結果、ほとんどの人が離れ離れに。清野さんと橘さんの勇気ある行動によって再び集合。しかしその時すでに三森さんは殺されてしまっていた。大まかな流れはこんな感じですね。」

そう話し始めたのはやはり赤城くんだ。


「みなさんが集まってから話そうと思っていたんですが、一つ大事な報告があります。」


私は満を辞して話し始める。


「私と橘さんは、実は当初は外へ逃げるために動き始めたんです。理由は15分経っても皆さん含め侵入者も何も行動を起こしておらず、銃声も叫び声も聞こえず、2階に来る人も一人もいなかったからです。私たちは皆さんが既に割れた窓ガラスから外へ逃げた可能性を考え始めました。そこで皆さんを探すよりも前に最初に向かったのは侵入者が姿を現したバックヤードでした。」

そこまで話すとほぼ全員が驚きの表情を浮かべてこちらを見ていた。


「ただ、不思議なことにバックヤードで窓ガラスなんて割られていなかったんです。」

「え。」

「え、そんな…じゃああの音は何の…。」

佐藤と飯田が反応する。


「バックヤードの窓の下の辺りに、窓は割られていないのに大量のガラスの破片が落ちていました。おそらくはそのガラスが割られた音かと。國谷さん、バックヤードで元々ガラスを割ったりしていませんよね。」

「あぁ、はい。私にそんな記憶はございません…。」


「何のためにそんなことを…。」

佐藤にそう訊かれる。


「これはあくまで推測ですが、侵入者はわたしたちをここに閉じ込めた犯人じゃないでしょうか。そしてその人はこの旅館に入る鍵を持っている。あとは理由はいまいちわからないですが、鍵で侵入した後、鍵の存在がバレないようガラスを割ったとか。こんな早く私たちにバレるのが想定外だったとしたらそうかなと。」


「でもなんか引っかかりますよね。」

赤城くんがそう反応した。


「もしかしてあの侵入者、私たちが食堂にいることを知ってたんじゃないでしょうか。いきなり1人で食堂に入ったら人数の差で銃を持ってても抑え込まれるかもしれない。でも音を立てて全員で移動させて、その移動途中で遭遇すれば、先ほどの私たちのように慌てて分散して逃げてくれるのを狙ったとか。三森さんはそれで1人になって殺されてしまいましたし。」

橘がそう話す。彼女がここまで頭が回るとは意外だ。


「その話で行くと、三森さんを殺したのはあの侵入者ってことになりますよね。私はそれは違うと思います。」

東條がそう反論した。


この一連の事件が始まった時は全員放心状態で赤城くんが先導したが、落ち着いてくると全員かなり頭が切れるようだ。


「それではあの三森さんが殺された現場の薄いビニール製のフード付きマントや、黒い仮面、黒い手袋の説明がつきません。自分は侵入者と遭遇した時の彼の服装をちゃんと見ることが出来たんです。彼は全身黒かったですが、上下は分かれていてマントではなく、仮面ではなく黒マスクとサングラスでした。それに侵入者が犯人ならわざわざ血がついた服飾品をあそこにわざわざ置いていった意味がわかりません。自分は、あれは顔の割れている人間が人を殺すために返り血用に用意した道具だと思います。」

東條がそう続ける。

「でもそれにしても不思議ですよ。返り血用にあれを用意することまでは分かりますけど、なんであんな場所に置いといたんですか。そのままなかなかバレなそうなところに隠してしまえばいいのに。あれじゃあこの中の誰かが犯人ですって言っているようなものですよね。」

私は自分の中の疑問を話した。


「逆にそれを利用してあの侵入者がわざと置いていったってことも考えられませんか。」

次は赤城くんがそう続く。

「なるほど…。」

確かにそうだ。何も間違ってない。可能性は高いと思われる。


「はぁ。一瞬ソワソワしちゃった。じゃあこの一連の犯人は侵入者の可能性が高いってことね。鍵を持ってるならいつでも出入りできるし。…あれ、待って。管理人さん、あなた鍵を持ってるんじゃないの。」


「もちろん鍵は持っておりますが、その鍵は外から使うもので、中からは鍵がなくともつまみをひねることで鍵が外せます。皆さんの家もそうでしょう。中に閉じ込められてしまった時点で、鍵は意味をなさないのです。ちなみにこの建物で人間が出入りできるのは表の出入り口かこの食堂の隣のバックヤードにある裏の出入り口、それかこの食堂にもあってこの建物の何箇所かにある大きい窓くらいです。まず昨日もお話しした通り私はいつも鍵をかけません。そもそも鍵がなくてもどこでも外からも開くはずなのです。裏の出入り口や他の窓を確認する前にテロリストのアナウンスで皆さんと行動していたのでまだ確認できていませんでしたが、先程バックヤードに逃げんこんだ際、私は最初に裏の出入り口に走りました。しかしやはり中から鍵をかけていないにも関わらず、ドアは開きませんでした。その後後ろを走ってきた佐藤さんと私の部屋に逃げ込んだ次第です。」


「確かに言われてみればそうですね。ということは侵入者はこの建物を封鎖した犯人で、自分が仕掛けたトリックだからそれを外して中への侵入が可能だった、ということですか。」

東條がそうまとめる。

なるほど…。

そこにいる全員が納得した様だった。


「じゃあ殺人犯はまだわからずとも、私たちを閉じ込めた犯人=侵入犯で間違いないですね。」

赤城くんが自分を納得させるようにそう言う。

しかしよくよく考えればこれは当たり前のことだ。

私が推測で出した侵入犯が閉じ込めた犯人という説がちゃんと立証された。

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