第3の殺人
わたしたちは慎重に歩みを進めていった。
表の出入り口があるロビーに戻ってくるがやはり誰もいない。
誰かがいる気配すらない。
私たちはその隣にある男湯へと踏み込むことにした。
中に踏み入れた瞬間、1人が脱衣所の棚の影から顔を出した。
「良かった。無事でしたか。」
飯田だ。
「飯田さん!」
橘は飯田みつけてだいぶ安堵した様子だった。
「はぁ。一気に安心しましたよ。それにしてもよく行動に移せましたね。私も今外の様子を見に行こうか迷っていたところです。ずっとそこのトイレにいたんですよ。」
そうか。脱衣所のトイレなら鍵はかかる。
「良かった。鍵のかかる場所にいれてたんですね。安心しました。」
そう声をかける。
「トイレに隠れている間外から何か聞こえたりはしましたか?」
「それが、混乱が収まって静かになった後は何も。誰一人ここを通ってないと思います。いい加減1人で狭いトイレにいるのが怖くなって出てきたところです。出てきただけでこの男湯から出ては行けませんでしたが。」
「なるほど。とりあえず無事に合流できて良かったです。」
飯田と合流できたことはでかい。銃を使われたら終わりだが、素手での勝負なら飯田はかなりの戦力になるだろう。
3人とも大分安堵していた。
「でも、よく考えるとおかしいですねそれ。私たちは2階に隠れたんですよ。でもまず2階には私たち二人以外に誰も上がってこなかった。それなのにロビーに一番近いこの場所であの混乱以来誰も通っていないなんて。侵入者は一体どこに行ったんでしょうか。」
「奥の食堂の方まで進んで、まだそこから帰ってきていないってことも考えられますかね。じゃないと何のために侵入したのか意味がわからないですし。」
橘の問いかけに飯田がそう答える。
本当に侵入者の目的は何なのだろうか。
「とりあえず今は考えるより他の人を探したほうが良いですかね。隣の女湯も見てみましょうか。」
私がそう呼びかけるとまた行動することになった。
飯田が加わったことでだいぶ足取りも軽くなる。
しかし、女湯の前に来た途端、ひどい匂いを感じた。血の匂いだ。
「え。これって」
橘が鼻や口を抑えながらそう言う。
「私が最初に入ります。お二人ともここで待っていていただいても構いません。」
「いえ、飯田さんだけに任せるわけにはいきません。私も入ります。」
「それなら、私も。」
橘はおそらく入りたくないのだろう。
だが、これは確実に何か起きている。自分の目で確認しなければならない。
女湯に入るとそれはすぐ目に入った。脱衣所の中で浴室にとても近い場所で彼女は倒れていた。ひどい血の量だ。
「あっ、あ。うぅ…。」
橘が必死に叫ぶのを堪えている。
これは誰が見てもきつい。
殺人現場など普通生涯で見ないものだ。
隣を見ると橘は泣き出してしまっていた。
「三森さん…ですね。」
彼女はうつ伏せに倒れているが、小柄な体に服装、髪の色と髪型で彼女と判定できる。
「とりあえず、何か調べる前に他の人を探しますか。おそらく精神的にもその方が…。」
私は飯田に向かって橘の存在を目配せしながらそう伝えた。
「そうですね。調べる前に私たちの身の安全の確保が先ですしね。橘さん、大丈夫ですか。動けますか。」
「…はい…。」
橘は過呼吸のようになっていた。必死に本人も落ち着こうと努めている。
橘のためにもすぐにここから離れた方がいい。
橘を守るようにしながら私たちは注意して女湯から出た。
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