ガラス

「おかしくないですか。下から何も音が聞こえてきません。」


「ここの建物は防音機能がまるでないから結構音が聞こえるけど、さすがに銃声やガラスの割れる音、叫び声じゃなければこの部屋までは届かないんじゃないかしら。だから逆にみんなが無事である証拠だと思うわ。もし銃で撃たれでもしたらすぐわかるもの。」


「じゃああの侵入者はどこに…。」

橘がいうことも最もだ。1階は思いつく限り鍵のかかる場所はない。そんな場所に標的となる人間が7人もいるのだ。誰も見つけられていないことはないだろう。この静けさが逆に怪しい。


「もしかしてですけど、全員もう外に逃げたんじゃ。侵入者の目を掻い潜って、侵入者が割ったであろう窓ガラスから逃げたんじゃないですか。そうだとしたら、逆に今この建物には私たちとあの侵入者しかいない。まずくないですかそしたら!」


「落ち着いて。あくまでそれは想像だわ。こういう時こそ冷静に行動しましょう。でもそうね、もう私たちが二階で隠れ始めてから15分は経つわ。誰かがここに助けに来る気配もないし、何か行動した方がいいかもしれないですね。それこそ私たちも、バックヤードの割れた窓ガラスを探しに行きませんか?そこから外に侵入者にバレずに出れるかもしれない。」


「外に出るんですか…。」

橘はすごく怖がっている。それも無理もない。

「でももし犯人が二階に上がってきてここだけ鍵がかかっているのに気づいたらどうする?2階に上がってこられたら私たちがいることはすぐにバレますよ。」


「それもそうですね。」

「覚悟を決めましょう。」


私たちはとりあえず武器になりそうなものとして一番近い、折り畳み傘を持って廊下に出ることにした。

二人とも武器を持ちたかったが、折り畳み傘以外何も無かった。


ドアを少し開けて廊下の様子を伺うが誰かがいる気配はない。恐る恐る橘と部屋を出て、音をたてないようにドアを閉めた。


階段まで来ても何も起こらなかった。下の様子を見ながらゆっくりと下がっていく。

一階が見えるようになっても、そこには誰もいなかった。


ついに1階に到着する。

次にゆっくりと先程とは反対方向のバックヤードに向けて歩き出す。

まだ2人とも行ったことのない場所だ。

後ろを確認しながらゆっくりと進むが、何も起こることはなかった。


あまり遠くはなかったが、バックヤードへの扉を開く。

いきなり侵入者と鉢合わせるかもしれないと思い、とても勇気がいった。

しかし、バックヤードはただの一室で誰もいなかった。どうやら倉庫として使われている部屋らしい。

そのままゆっくりと扉を閉める。


「え。なんで…。」

橘が突然声を上げた。

「どうしました?」


「窓ガラス、どこも割られてないじゃないですか。」

「え…。」

「私たち、逃げる前、たしかに侵入者がここの扉を開けて姿を現すのを見てますよね?あの人はどこから入ったんですか。」


私は何も答えられなかった。何が起きているかわからない。


しかし部屋を見渡すと窓ガラスの下あたりでガラスの破片がたくさん飛び散っているのが目に入った。


「これって…。」

私がそういうと橘もそれに気づいたようだ。


「え、じゃああの音はこの破片ができた時の…?」


「おそらくだけど、あの侵入者は私たちをここに閉じ込めた人なんじゃないかな。あの人はおそらく、どこかの出入り口から鍵を使って普通にここに入ってきた。その上で鍵を持っていることをバレないように、ここでガラスを割った。私たちがこうして早い段階でこれを発見してしまうこと自体が想定外だったんだと思います。」


「でもわざわざバレないように入れたのに自分の正体を気づかせてしまうことをするなんて。」


橘のいうことも最もだ。何か引っかかる。



「とりあえず安全を確保するのが先ですかね。また皆さんにお話して全員で考えましょう。それで、これからどうしましょうか。私たち割れた窓からバレずに外に出れるかもって思ってここにきたけど、結局外に出るには、大きい音を立てて窓ガラスを割るしかなくなっちゃいましたし。」


「怖いけど…注意しながら食堂に行ってみない?もしかしたら誰か隠れてるかもしれない。私たちは2階の状況はわかってるけど、1階のことは何もわかってないわ。ここで大きい音を立てて犯人に居場所がバレるより、バレないように注意しながら皆さんを探してみましょう。なんか…なんとなくだけどあの侵入者はもうこの建物にいない気がするのよね。」

「え、なんでですか。」


「窓ガラスが割られていないことが確認できたから、残りの7人も必ずこの建物の中にいる。それに橘さんが教えてくれた通り、2階に上がった人は私たち2人だけ。覚えてる限りほぼ確実にどこも鍵のかからない1階に7人もいるなら普通は誰かは侵入者にバレてるはず。それなのに叫び声も聞こえなければ銃声もしない。そしたら侵入者の目的はわからないけど、もう建物にはいない。もしくはここにいる人を探す気がなくて、あの人自身もどこかに隠れてる、とか。」


「どっちにしても意味がわからなくないですか。ほんとに何がしたいのか。」


「とりあえず、ただ誰かが来てくれるのを待ってどこかに隠れるより、私は行動したい。もう限界なのよ。こんな空間。」

「清野さん…。」

苛立っている私に橘は少し意外そうな反応を見せた。


「清野さんが行くというなら、私も行きます。一人が耐えられなくて清野さんのとこに来たくらいですから。1人で隠れる方が怖いです。」


「ありがとう。注意していきましょう。」


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