手荷物検査

「荷物検査をするのはどうかしら。」

そう提案したのはまた佐藤だった。


「今までの2人も毒殺されているし、もし犯人がまだ殺人をしようとしてるなら怪しいものやそれこそ毒を持ってるかもしれないし、どうでしょう?もちろん同性同士で確認するのが良いと思うけれど。」


「良いですね。賛成です。」

東條は乗り気なようだった。


「僕も賛成です。しかし、これからさらに殺人は起こるのでしょうか。殺されてしまった2人は犯人と思われる人物に脅されてここに来たと話していました。もし他に同じく脅されてここに来た方がいないなら、もう犯人の目的は達成されていて、もう殺人は起こらないのでは。」

そう飯田が続いた。


「たしかにおっしゃる通りですね。ですが万が一のためにも、さらに安心するためにも手荷物検査をしてみましょうか。」


赤城くんがそうまとめてすぐに手荷物検査へと移った。



しかし、誰の持ち物からも怪しいものも、ましてや毒も見つからなかった。

私が怪しんでいた風間の荷物も中身は本当に美術用品と生活用品だった。生活用品というのは、彼女のこだわりから旅館にすでに用意されているようなものまで持ってこられていた物たちだ。挙げていくとキリがないが、例えばどこで売ってるかわからないシャンプーなどお風呂グッズにマイ箸、先程赤城くんが話していたマイ枕に大量すぎる服と靴、アロマキャンドルまであった。また、片方のキャリーケースに何も入っていないというのも本当だった。


「誰も怪しい物なんて持ってませんでしたね。少し安心しました。」

橘が久しぶりに発言した。


「もしもう殺人を犯す気がないなら、犯人は今ここで出てきてくれません?私は特にあなたを警察に突き出すつもりもないし。ただ犯人に出てきてもらってもう殺人をするつもりはないという言葉を聞いて安心したいのよ。」

佐藤がそう提案した。


「そう言って出てくるとはあまり思えないですが。」

飯田がそう小声で返す。


しばらく沈黙の時間が流れたが、やはり誰も声をあげなかった。


「はぁ。わんちゃん狙って言ってみたんだけど、やっぱダメね。まさかまだ殺すつもりなのかしら。」


佐藤には余裕が見えるが、三森が今にも崩れそうなほど怯えているのが見ていてわかる。


「三森さん、大丈夫ですか。」

「ひっ。」

赤城くんが見かねて声をかけると三森が恐れ慄くように反応した。

「だ、大丈夫です。」


三森は体を震わせて下を向きながらそう答えた。


「これからなのですが、食べ物、飲み物以外にも今回のように薬、またタバコ、それにコップや箸といった口をつけるものまで、未開封だったり、洗ってから使用するなど、次こそは毒殺を防ぐように行動しましょう。まだしっかり休めていないので、また班に分かれて休みましょうか。先ほど分けた班で良いですか?」


すっかりリーダーとなった赤城くんがそう取り仕切る。

誰も反対するものはいなかった。

しかし、三森を始めとして、気を遣っているが橘も、もはや全員が恐怖を超えて諦めに近い絶望を顔に浮かばせていた。


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