東條の推理

「清野さんはどう思われますか。」


東條がいきなり切り出してきた。正直驚いた。今は再び班に分かれて休憩の最中だ。あまりに管理人の國谷が疲れていたので、ひとまずまた先に休んでもらっている。彼は寝息を立てながら深く眠っているようだ。

「何がですか。」

「あぁ、ごめんなさい。なんか自分、今回誰が標的なのかわかってきてしまった気がして。」

…なぜだ。そんなことが犯人以外にわかるものなのだろうか。


「そしたら他に誰が狙われているというんですか。」

恐る恐る尋ねてみる。


「いやぁ。本当に勘なんですけどね。理由から話すんですが、正直自分は殺されないって思ってるんですよ。なぜなら本当に誰かに殺されるほど恨まれるようなことしたことがないので。今回の犯人のことを考えた時に、殺された二人を脅していたことといい、動機が恨みの類であることは確かです。それになかなか用意周到な計画犯罪ですよね。今の時点で全く犯人が誰かわかっていないですし。無差別殺人とか、ただの快楽殺人じゃないことは確かだと思います。快楽殺人にしては殺し方が一番地味なくらいですからね。あ、ちょっと不謹慎ですが…。」


「構いません。確かにそうですね。それで、じゃあこれから殺される人というのはどなただと思うんですか。」

「正直に言うと、まず三森さん。元の性格もあるのかもしれませんが、それにしてもビビりすぎだと思います。自分が殺されることを確信しているような感じに見えちゃいます。次に佐藤さんですかね。これも元の彼女の性格かもしれないですが、彼女根は素直でなかなか良い人そうじゃないですか。ヒステリックになるのも誰よりも早かったし、普段も自分が殺されるんじゃないかって疑ってるような気がします。だいぶこの人は気分に波がありますよね。」

「…なるほど。」


そこまで言うと東條は黙った。


「この2人が殺される危険があると思ってるんですね。」

「いえ、もっといるんです。ごめんなさい、次に心配なのが、あなたです。あなたはすごく冷静でたまに場が収まるように立ち回りますよね。一件特に問題なさそうなんですが、時折苛立ったり、慌てているように見える時が多いです。実は何か心当たりがあったりするんですか。…あ、いえ、言いたくないと思うので、あまり深掘りする気もないですが…。」


これは驚いた。私も中々隠し事の下手な人間だ。


「はは。そこまで見破られてるんですね。あいにく詳しくは話せないですが、一つ心当たりはあります。どう思われているかは、わかりませんが…。」


「そうだったんですか…。とはいえ、だからといって殺されて良い理由にはなりません。一緒に生き延びましょう。」

「東條さんは本当に良い人ですね。それにここまで名探偵だとは思いませんでしたよ。」

「いえ、そんなことは…。」

「では、この3人が心配だと。」

「いえ、もう1人。自分は管理人さんも心配です。彼も警察にすぐ連絡していなかったり、とても疲れて今も寝ていたり、話し合いの時もかなり不安そうでした。何かと謎めいた雰囲気もありますしね。まあとはいえ、彼に関してはそこまで確証はないんですが。あと…それと、もう1人。」

「そんなに被害者が出ると思うんですか。」



「いえ、犯人として疑っている人がいます。」



これは驚いた。少し緊張しながらも彼の次の言葉を待つ。


「赤城君なんですよ。」

「え、なんで。」

「あなたは赤城君に絶対的な信頼をしてるように見えますものね。自分から見たらめちゃめちゃ怪しいですよ。まず単純に彼がこの旅館に最後に来た人ですよね。彼なら窓やドアの細工、テロリストみたいな人たちの手配など、一番しやすいんじゃないかなーって思ったのが最初です。」

「東條さんもテロリストは偽物だと?」

「もちろん。ここは日本ですよ。しかもこの孤島でさすがにそんなことする人はいないかと。本当にあれは犯人の時間稼ぎなんでしょうね。偽物だと思っても、銃を持っていると思われる人間がいることは事実な以上、下手に外に出られませんから。あの2人もおそらく犯人とグルだと思います。」

「なるほど。それで、赤城くんを疑う理由は最後に旅館に来たから、と他には何ですか。」

「彼だけアリバイがちゃんとある点です。まあ厳密に言えば彼にも殺せるので完璧ではないですが。もし高橋さんが殺されていたのが、赤城くんのアリバイのない0時以降3時前なら、もちろん赤城くんにも犯行可能ですしね。ただ私も清野さんと同じく、0時より前、というかだいぶ早い段階で高橋さんは殺されていたと思っています。19時に高橋さんと塩見さんが別れて以来、誰も高橋さんの姿を見てないですからね。それに19時以降誰も男風呂に行っていなかったなら、殺されてずっとそこにいたと考えるのが一番自然ですし。となると赤城くんはたった10分程で高橋さんの殺害を成功させたことにはなりますが。まあ一応不可能ではありません。何かトリックでもあるのでしょう。それに、あなたが彼に話しかけられて0時近くまで一緒にいたことで、2人にはちゃんとアリバイがありますよね。まあ、ここがグルならわかりませんが。言い方悪くて申し訳ないですが、彼はアリバイのためにあなたと0時まで一緒にいたのではと思ってしまいまして。」

「なるほど…。そこまで彼が怪しいと考える理由は何ですか?旅館に最後に来たことと、アリバイが唯一あって犯人には一番思えないという結論になってるのが逆に怪しいというのじゃ、少し弱い気が。」

「まあ、そうなんですけどね。他には一応、これ全部彼の手の中なんじゃないかなーって思って。ほら、高橋さんの死因が毒殺っていうのも彼が結論づけたでしょ?実際は水から毒が出たとも分かってないのに。まあでも、塩見さんの薬は状況から本当に毒だったんでしょうから、あんまり疑うべきでもないんですが。でも赤城くんが高橋さんの死因を毒殺と決め付けたのは、塩見さんが毒殺される前だった。結構自分は違和感覚えてたんですよね。あまりに自信ある感じだったので。それに、今後の行動の方針を決めているのもいつも彼。何か彼の思い通りに出来すぎてないかなって思って。つまり、この状況で誰にも疑われず、全部思い通りに出来てるのが彼なんですよ。あの塩見さんすら信頼してましたからね。」

「何となく言いたいことはわかりますし、正直私も赤城くん含めて怪しいと思っているので、そこまで反論はないですが、この程度の疑いでしたら他の誰でも同じくらいは出てきそうですね。」

「まぁ、確かにそうですよね。すみません、いきなり。ただ、自分のような犯人ではなくて、これからも被害者にならないと思われる第三者的な位置から見ると、1番赤城くんが怪しく見えるという話です。あぁ、あと最後に。彼からは怖いといった感情が全然感じられなくて。何かこの事件のことを前から知っていたとか、これからも何が起こるか知っているんじゃないかと思うくらい落ち着いてるなと感じてしまったんです。自分は殺されないと思っていても、自分もこの状況に怖さはありますからね。」

「なるほど。確かにそれはありますね。」


正直赤城くんが怪しいというのはわかるのだ。このように考えている者もおそらく他にもいるのだろう。


そう思ったところで、休憩交代を知らせるアラームが鳴った。

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