第2の殺人

「今から買う自販機のペットボトルなら大丈夫ですよね?」

全員で2階の個室に向かう時、塩見が赤城くんに聞いた。

「ええ。さすがに自販機の商品全てに既に毒を入れるなんて難しいでしょうからね。」


それを聞いたほとんどの人が自分の分の水を買って行った。



私のチームは真面目な公務員、東條と管理人の國谷だ。

女性の部屋に入るのはちょっとということと、管理人の部屋はここ2階にはなかったので、必然的に東條の部屋で休むことになった。


「12時集合なら6時間強あるんで、2時間交代で寝ますか。」

「そうですね。どなたかすぐ寝たい方いらっしゃいますか?」


東條に答えて私がそう呼びかけても2人は特に反応しなかった。

「そしたら國谷さんどうぞ。私たちは少し長く寝ないくらいまだ大丈夫なので。」

年齢のことを考えて発言したつもりだが、直接的すぎただろうか。

しかし、國谷は気にする様子もなかった。


「ほんとですか。悪いのですがお言葉に甘えさせていただいてもよろしいでしょうか。いやはや、歳をとると少し疲れやすくて。」


「ちゃんと見張っておきますので、ゆっくり休んでください。」


東條も賛成のようだ。

「ありがとうございます。」


だいぶ疲れていたようで國谷はベッドに入るとすぐに寝始めた。


そこから1時間くらい東條と私はただただ起きて何もしないでいた。

たまに少しばかり世間話をしたが、そこまで盛り上がらなかった。


しかしその時だった。

赤城くんの必死な声が聞こえてきた。


私はすぐに扉を開け放ち廊下に出てみた。赤城くんの部屋が空いていてもう声は聞こえてこなかった。その代わり少し話し声が聞こえる。


「東條さん。國谷さんを起こして私たちも赤城くんの部屋に行きましょう。おそらく誰かが…。」


「そうですね。國谷さん。すみません。起きてください。國谷さん。」


國谷はすぐに起きたようだが、まだかなり眠いようでほとんど寝ぼけていて目があまり開いていない。


「國谷さん大丈夫ですか?赤城くんのグループで何か起こったみたいです。私たちも様子を見に行きましょう。」


「…あぁ。すみません。わかりました。」


なんとか受け答えをしたが、大して頭は回ってないらしい。


少し強引にも私と東條で國谷を連れ出し、赤城くんの部屋へ3人で向かった。


部屋の前に来るとすぐに現場の状況は見えた。

塩見が倒れていて動いていない。

部屋にいるのは赤城くんのグループのメンバーだけだった。寝てる人はいない。

佐藤のグループは来ていないようだ。


「清野さん…。」

赤城くんが私たちに気付き、そう声をかけた。

三森と風間は部屋の端で座り込み、完全に怯えている。


「赤城さん、塩見さんは。」


「残念ながら…。」

東條が耐えきれずそう聞くと赤城くんがそう答えた。


「とりあえず、これは共有したほうがいいでしょう。まだあまり休めていないとは思いますが、佐藤さんのグループと合流しましょう。清野さんのグループで佐藤さんたちを呼んできてもらえますか。」


「わかりました。」


赤城くんにそう言われ、佐藤のグループを探すことになった。

どの部屋にいるかわからなかったので、一個一個ノックして呼びかけるしかなかった。


しかしすぐに部屋が見つかり、無事佐藤が対応してくれた。


どうやら赤城くんの声を聞いてから寝ていた人も起こして全員で部屋で待機していた様だった。

とりあえず佐藤のグループのメンバーも連れて廊下に出ると、すでに塩見を除いた赤城くんのグループのメンバーも廊下に出ていた。


「みなさんお休みのところすみません。実は先程、塩見さんが亡くなられました。」


そう聞いた瞬間佐藤のグループのメンバーの顔が強張る。


「何があったか説明します。まず俺たちはそれぞれメンバー1人ずつの部屋に順番に行き、何か必要なものがあればそれを1人ずつ取って行ったんです。俺は特にそういうのは無いんですが、風間さんは持参されていた自分の枕を。三森さんはアイマスクを持って来られました。…そして塩見さんが持ってきたのは睡眠薬だったんです。」


全員の顔が一層強張った。


「彼は元々不眠症だと言っていました。他にも毎日服用してる薬があるらしく、薬ケースごと持ってきました。その後、俺の部屋に集まって最初に誰が寝るかという話になり、話し合いの結果、一番精神的にも疲れているであろう塩見さんから休んでもらうことにしたんです。しかし睡眠薬を常に飲むのは避けているのと最初は今日は疲れたし寝れると思ったようで、薬を服用せずに寝始めました。しかしやはりどうしても眠れなかったため、睡眠薬を飲むと言い出して、それで…。」


「その睡眠薬が毒だったってことですか。」


なかなか言いにくくしていた赤城くんに対して佐藤がハッキリ聞いた。


「おそらくは…。彼は薬を一つ取り出して先程皆さんで買った水と共に飲みました。そしたらすぐに苦しみ出して。」


「既に塩見さんの薬は、高橋さんの水と同様に毒に変えられていた、ということですね。これではもう口につけるものは全て新しいものでなければ安心できませんね。」


東條は案外落ち着いて分析していた。

また、既に先ほど自販機で買った水は何人かが口にしているが何も起きていない。必然的に薬が毒だったということになる。


「おそらく高橋さんが発見される前に塩見さんの薬も毒に変えられていたんでしょうね。先ほどみたいにまたアリバイがどうとか言う必要は無さそうね。」


「はい。おそらくは…。」


佐藤の問いに赤城くんが答える。

高橋の死体が見つかってから1人で行動した人はいない。強いて言うなら唯一、管理人が警察に電話しようとした時だろうか。ただ高橋の事件の前でも、いつでも薬を毒に入れ替えられたことに変わりはないのだ。


「これからどうしましょうか。」


私はそう問いかけたが、全員疲れ切っていた上にとても重苦しい雰囲気が漂っていた。

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