アリバイ①

「じゃあ次は誰が犯人かだな。19時以降何をしてたか全員順番に言っていってもらおうか。」

「いや、警察でもないので、そんなことをしたところで犯人が見つかるとはあまり思えません。それにここに集まっている人たちは元々1人で泊まりに来てる人ばかりです。アリバイを証明できる人も逆にいないのでは。」

「じゃあお前らは。誰が犯人かわからない状態で、外にはテロリストもいて、警察がいつ来てくれるかわからない状態で何も心配なく過ごせるって言うのか。」

「気持ちはわかりますが、それこそテロリストがいるからですよ。彼らが高橋さんを殺した可能性も充分にある。それに犯人がテロリスト以外の外部犯の可能性だってまだ捨てきれません。」

「それはさっき話しただろうがよ。外部犯の可能性はとにかく極めて低い。ここの中で誰が怪しいのかハッキリさせて警戒しておくべきだ。」

塩見と赤城くんが言い争う。


「まあどうせやることもないし。寝るにも寝れないし。アリバイを確認し合ってもし犯人が割り出せたら万々歳ってことで確認してみても良いんじゃないですか。」

意外にも佐藤が乗ってきた。

塩見の頑固さに見かねて根負けしたのだろうか。


「私も賛成です。私はこの中に犯人がいないと思いたい。それに皆さん緊張状態が限界まできていて、心のどこかで全員を疑ってしまっている部分があると思います。今の時点でハッキリさせておけることがあるのなら、話し合う方が良いと思います。」

東條も続いた。


「それでは他の皆さんも特に異議がなければ、皆さんのアリバイを確認してみますか。」

赤城くんがそう問いかけたが、

誰も反対する者は出なかった。


「ではまず俺から。俺はこの旅館に着いたのが実は20時くらいなんです。最後の便の船でこの島に着きました。同じ船に乗ってた方はこの中にいなかったかと。もちろん普通にドアは開きましたよ。そのあと部屋まで案内してもらって少し休んだら、すぐに食堂に行きました。21時頃で食事の時間終わってしまいますからね。食堂に着いたのは20時半過ぎだったかと。21時前になって清野さんが食堂にいらっしゃいました。そのあとは2人でご飯食べてて、色々話してたら0時近くなっちゃって。2階で解散してそれぞれの部屋に行きました。その後は3時に叫び声を聞くまで寝てしましたね。あぁ、そう。朝シャン派なので夜はお風呂場には行ってません。」

みんな黙って聞いていたが、緊張感に満ちていて、赤城くんが犯人かどうか全員で精査している。


「では今話にも出てきたので、次は私が。私がこの旅館に着いたのは夕方ごろです。17時前くらいでしょうか。管理人さんに部屋に案内してもらった後は少し部屋で休憩をして、その後暇だったので旅館を探索してました。階段のところで風間さんと少し話し、ロビーでは高橋さんと塩見さんの言い争いを通りすがりに見ました。日本庭園に行った時に佐藤さんとも出会って少しお話しましたね。そのあとは一度自室に戻った後支度をしてお風呂場に行きました。18時くらいでしたね。19時くらいには自室に戻りました。おそらくその時に何人かすれ違ったと思います。あまり自信はないですが、東條さんと飯田さんだったのでは。」

「はい。私が食堂に行く途中ですれ違ってますね。飯田さんも同じタイミングで食堂に向かわれましたよね。」

「はい。間違いないです。自分達は一緒に食べたりはしてませんが、お互いに存在は認識しています。」

「ありがとうございます。そのあと私は自室に戻って21時近くまで仕事をしてました。まだ院生ですが、インターンをしてるのでその仕事を。21時近くになって慌てて食堂に行ったあとは赤城くんが言ってくれた通りです。その後私は3時ごろ叫び声を聞く前にお手洗いに行きたくて先に起きてました。廊下に出たタイミングで塩見さんと管理人さんに会って高橋さんを知らないか聞かれています。その時騒ぎで起こしてしまったのが飯田さんでしたね。その後高橋さんを探しに行った塩見さんと管理人さんと別れ、飯田さんとも別れた後トイレに行って自室に帰りました。ですが、眠りにつく前に叫び声が聞こえてきました。」


「なるほど。」

赤城くんがそう反応する。


「では次は私が話します。」

そう話したのは飯田だ。

「私がこのホテルに着いたのは18時ごろです。自分はこの体格もあって暑さに弱くて…大分汗をかいていたので来たらすぐにお風呂に行きました。ちなみにそこまでよく観察してませんが、その時お風呂場にペットボトルは見なかったと思います。あまり長風呂はしないので20分くらいでサッと出ました。そのあとは先程お話にあった通り、19時ごろ清野さんとすれ違い、その後食堂で東條さんもおられる中食事をしてました。終わったのは20時前とかですかね。時計見てなかったのでおそらくですが。その後は少しゲームセンターで遊んでました。お恥ずかしながらクレーンゲームにハマっていまして…。結構熱中していたのでその時にそこを誰が通ったかは覚えていません。しばらくしてあの日本庭園でタバコを吸いながらゆっくりした後、部屋に帰ってのんびりしてました。」


「あの、今思ったんですけど、18時ごろ男湯に行った飯田さんはペットボトルなんて見なかったなら、管理人さん、男湯に飲み物を常備していないですよね?女湯にもなかったですし。」

佐藤がそう話し始めた。

「はい。置いておりません。ロビーにある自動販売機か食堂でお食事をされる時にしかお飲み物は提供しておりません。」


「それならおそらく元々持っていたペットボトルか、自動販売機で買ったペットボトルのどちらかに、誰かがどこかのタイミングで毒を入れたってことじゃない?そのタイミングが合った人がわかれば良いってことよね。あの、高橋さんがそのペットボトルをどのタイミングで持っていたか覚えてます?」

「いや、覚えてないっすけど。」

「そしたらこれから被害者を増やさないために、とりあえず皆さんすでに持って来ていたりロビーの自動販売機で飲み物を買った人がいたら、それらは今後一切口にしないことにしましょう。同じ手口の犯行は防げるはずです。すでに誰かの飲み物に毒を入れられてるかもしれませんし。」

「たしかにそうですね。これだけ全員が警戒してる中直接殺すのは難しい。毒殺がこれで防げると思えば、少しは安心ですね。」

私もそう続いた。


「でもそしたら、外部犯の可能性が出てきましたね。」

「は。どういうことだよ。」

「あ、いや、すみません。でもだってそうでしょ。この旅館に来る前からそのペットボトルにはすでに毒が入ってたのかもしれない。それにこれなら高橋さんの自殺の可能性もあります。」

東條の言うことは最もだ。

「高橋は自殺なんかしない。今日ずっと一緒にいたんだからわかる。外部犯の可能性は、わからねぇ。けどわざわざ俺らは脅されてここに呼び出されてるんだぞ。犯人が俺らを殺したいなら死んだことを確認しに来るだろ。今もわざわざご丁寧にここから出れねえようにしてるしよ。毒を入れただけじゃ結局毒入りペットボトルを飲まずに捨てる可能性だってあるしな。それにわざわざ脅されてきた島でその予兆が無かった高橋がいきなり自殺するなんて考えるのは無理がある。」

「そうですよね。すみません。」

東條は少し押しに弱いらしい。


「とりあえず、すでに自分が持ってる飲食物をこれから口にしない。また今後は毒入りペットボトルがいつ作られたか考えれば良いと言うことが分かりましたね。」

赤城くんがそうまとめた。


「あ、では一応続きなんですけど、22時ごろには眠りについたと思います。いつもそれくらいなので。そのあとは清野さんのおっしゃった通りです。一度廊下での騒ぎで起きて、叫び声が聞こえた時も下に向かいました。」

飯田の行動はこれで全てだ。


「じゃあ次は私が話すわ。」

次に佐藤がそう話し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る