行方不明者

夜中に突然目が覚めた。

どうも最近寝つきが悪い。忙しくて夜まで作業してる時が多かったからか。

一旦トイレに行くことにした。

トイレは部屋の中にはないため、2階の共同トイレに行こうと廊下に出ると、廊下の端で誰かが2人でひそひそと話しているのが見えた。


何やら1人は焦っているようだ。

2人が私に気づくと、そのうちの1人の男が話しかけてきた。

「あなた、20代後半くらいの背の高い男性をどこかで見ませんでしたか。」

「いえ、見てませんが。いないんですか。」

「そうなんです。私の連れなんですが、今日の夜19時前に解散した後、22時ごろに一緒に呑もうと思って部屋に行ったら鍵は開けっ放しで誰もいなくて。もうこんな時間になっても帰ってこないんです。」

よく顔を見たらロビーで言い争っていた男だった。ではいなくなったのはその時にいたもう1人の男だろうか。

「ですが今日はもう遅いので、朝まで休んでから明日また探す方が良いのでは。」

遅れて近寄ってきて、そうなだめたのは管理人だった。


「だって、人のほとんどいないこの小島で、真夜中にどこに行くって言うんですか。」

「何か嫌なことがあって1人で海でも眺めに行ってるのでは。いないのは高橋様ですよね?すでに成人されている方ですし、そんなにご心配なさらなくても。」

「いや、それじゃまずいんだ…。早く彼を見つけないと。」

「確かに連絡もなしにどこも行くところのないこの小島でこんな夜まで帰ってこないとなると、心配になるのもわかりますが、管理人さんの言う通り朝になってから探す方がよろしいかと。」

「じゃあわかりました。俺は1人でこの館内を探して回ります。夜に失礼しました。」

彼は何が何でも友人を探したいらしい。周りが何を言ってもダメだ。

「…はぁ、事情はわかりませんが、そこまで言うなら私もこの旅館の管理人としてお供します。」

「何の騒ぎですか。」


段々声を荒げていった男性のせいなのか、近くの部屋の人が起きてきた。

「夜にすみません。ですが、友人が行方不明なんです。」

「…どうされました。何かあったんですか。」

「とにかく今友人が無事か心配です。建物内をこれから管理人さんと探しに行きます。ですのでもうここでうるさくはしません。夜中に失礼いたしました。」

「そうですか。ご友人の無事を祈っております。」

「行きましょう。管理人さん。」

「はぁ。」


たしかにこの小島で夜に旅館に帰ってこないことは気になる。他に寝泊まりできるところがどこにもないからだ。この小島に知り合いでもいれば別の話だが。彼の様子だとどうやらそういうことはないらしい。


管理人と友人を探す彼がいなくなり、残された私と起きてきた人も軽く会釈して解散した。

それにしてもあの慌てようは、何か嫌な心当たりでもあるのだろうか。


再び眠くなってきた私はトイレに行った後すぐにまたベッドに入った。


しかし、眠りにつく前に男性の必死な叫び声が聞こえてきた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る