赤城謙人

なかなか温泉は良かった。

1日の疲れも取れ、回復出来た。

部屋に戻ったら仕事でもするかな。


旅館内を歩くと何人かとすれ違った。

夜も近くなってきて人が増えてきたみたいだ。

元々多くは泊まれない旅館だからもう満員なんじゃないだろうか。

意外と人が来るものだな。


一仕事終えて時計を見るともう21時近くになっていた。いけない。夜ご飯は21時までだったか。

急いで食堂に向かう。食堂には管理人が調理場に、客は1人いるだけだった。


夜ご飯はバイキング形式。幸いちゃんとご飯は残っていた。迷惑がかからないようすぐにご飯を取り終え、席に座った。

和洋中取り揃えたメニューに蟹まであった。中々豪華で美味しそうだ。


すると、思いもよらずもう1人の客が話しかけてきた。

「1人で食べるのも何なので、良かったら一緒に食べませんか。」

「…。」

驚きのあまりすぐには反応できなかった。

これは新手のナンパなのだろうか。

顔を見上げると、私よりも若い好青年がコチラに微笑んでいた。

顔が良いからという訳ではないが、悪い人ではなさそうなので断って気まずく食べるよりはと思い、

「あ、どうぞ…。」

と言った。

「すみません、失礼します。」

そう言うとその青年は私の向かい側の席に座った。

「なかなか美味しいですよ。これだけ綺麗な海に囲まれてるからやはり海鮮が1番美味しいですね。」

「そうなんですね。あまり食欲がなくて、そこまで取れませんでしたけど、確かに美味しそうです。…えっと、お一人でご旅行ですか。」

「そうっす。あぁ俺、赤城謙人(あかぎけんと)って言います。大学1年なったばかりなんですけど、ちょっと都会の人に疲れたので、人が少ないとこでのんびりしたいなぁって思って、この島に来ました。」

自分探しの旅でもしてるんだろうか。

「そうなんですね。私は清野あみかって言います。23歳で院1年です。私は友人に会いに。」

「へぇ、こんなとこに友達いるんすね。」


何となく気まずい。友達になるまで他人をどうでも良いと感じてしまう私にはこういう時の会話は苦手だ。


「てか院生ってすごいっすね。頭良いんだなー。将来は研究者とかっすか。」

「あ、いえ。普通に就職するつもりです。今もインターンとか行ってて。最近は大学院より、インターンの仕事の方が忙しくなってきてますね。」

「あぁ就活っすか〜俺もいつかやらないとだよなー。やだなー働きたくねー。」


とはいえ、人当たりのいい彼はまだ話しやすかった。

しばらく彼とたわいも無い話をした後、それぞれ自室に戻った。

「じゃあまた明日。」

「はい、じゃあ。」


部屋に帰り時計をみると0時近くなっていた。そんなにも話していたのか。

彼の元々の人懐っこさや何となく安心感から、思わず話し込んでしまった。


今日はもう寝よう。そう思いベッドに入った。

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