第五膳 問い『おでかけとちらし寿司』

 朝起きて『おはよう』のあいさつをするのは、ずいぶんと久しぶりのことだった。

 タマの返事は相変わらず『ニャー』だけど。


 朝ごはんを人のために作ったのも久しぶり。

 今日の晩御飯は何しようかと心がワクワクしたのも久しぶり。

 なにが食べたい? そう聞くのも久しぶりだった。


 そして返ってきた答えに固まったのも久しぶりだった。

 タマが満面の笑みで、世界崩壊前に書籍化されたわたしの修行時代の苦労話を面白おかしく書いたエッセイのとあるページを開く。


『ちらし寿司』


 それがリクエストだった。お、おう。ちらし寿司ね。

 なかなか難しいリクエストで。

 まぁ寿司よりはハードルが低いか。いや、むしろ高いか?

 ムー大陸のせいで世界が変わり、新鮮な生魚を手に入れることが格段に難しくなったからだ。


 しかし、どの程度本格的に作るかにもよる。

 そもそもちらし寿司っていろいろ種類があり過ぎるし。

 とにかく見た目はきれいに仕上げたいところ。


 と、そんなわたしの胸中を知るはずもなく、期待に目を輝かせて見上げてくる。

 その様子からして、ちらし寿司には何やら思い入れがありそうな様子だった。


 そういえば、ちらし寿司を作るなんて何年ぶりだろう?

 娘タマヨの誕生日でありひな祭り、どれだけ忙しくとも毎年作ってあげたな。


 そもそも具材は何を入れてたんだっけ?

 毎年違ったからな。

 どれも喜んでいてくれた気がする。


 刺身系の具材は大丈夫なのかな?

 これだけ頭を使う料理も珍しい。


 そうだ。それをいっぺんに解決する方法があった。


「よし、今日は一緒に買い物に行こうか!」

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