第50話 守り神さんお帰り

 11月になり守り神さんが帰郷してきた。

 出かけていた場所は出雲の国。毎年10月は里帰りをしているらしいが、お土産をやたらと一杯引っ提げて帰って来た。


「ただいま戻りました」


 ほんとに一杯持ってるな...。

 どじょう掬いまんじゅうに、たい焼きみたいなおふく焼き。他にも様々だ。


「全部買ったのかい?」

「いえ、ほとんど貰いものです」


 どうやら、前にメトラさんが守り神さんと仲良くしているのを見て、他の人たちも委縮してしまったのだろうか...。

 まぁその気持ちは分かるが...。


「でも、これは私から皆さんへの気持ちです」


 そういい、守り神さんは人数分のお守りを袖のポケットから取り出した。


 一カ月、俺達からしたそこまで、長い時間ではない、だが...快からしたら、それはかなり長い時間一緒に居なかった事になる。

 快はじっと守り神さんを見つめると突然泣き出してしまった。

 会えなかった寂しさが涙として溢れ、守り神さんが頭を撫でると快は大人しくなった。

 やがて泣き疲れたのか快は眠ってしまった。


「布団に寝かせてきますね」


 微笑ましい感情を今は置いておき、俺は仕事に戻る事にした。

 仕事用の机にお守りを飾る。ここならば普段作業をしていても、視界に入る。


「厄除け祈願...どうだかね」


 貰ったお守りを見て微笑ましく思う。厄除け...効くと良いね。と他人事のように思うが、まぁ実際今の所厄年にも関わらずそこまで、ひどい事は起きていない。


「差し入れ持ってきましたよ」

「あぁ、ありがと」


 お守りを見て思いを馳せていると、守り神さんがお茶を持って俺の部屋へと来てくれた。

 この感じも久しぶりだ。

 それに、昔に比べてすごく気さくに話しかけてくれるようになった。

 最初なんて、鈴の音しか聞こえなかった位だ。


 少し散らかった書類を守り神さんは整頓する。

 つい、涙腺が緩み涙が溢れそうになるが、それをグッと抑え込み、その代わりに今までの感謝を込めて持て成すとしよう。

 手で招く仕草をすると守り神さんはトテトテと駆け寄ってくる。手元まで来た可愛らしい耳の生えた頭を優しく撫でる。


「おかえり」

「はい!ただいまです!」


 狐っぽい守り神さんは満面の笑みを浮かべ気持ちよさそうに頭を手にこすりつけてくる。子猫のようでとても可愛らしい。

 そういえば...守り神さんの名前を未だに知らない...


「私はこの土地を守護する存在として祀られてきましたが...私を信仰してたのはここに住んでた方だけでした...名前を授かるほど...私は偉大な存在ではありません...」


 どこか寂し気な表情を浮かべる守り神さんに居ても立っても居られなくなり、俺は嫁に相談することにした。

 すると嫁は、覇王様に名づけをして貰う事を提案する。遠慮がちな守り神さんを他所に、嫁は黒電話で覇王様を呼び出し、そそくさと名前を付けてしまった。

 日本人っぽい名前が良いと嫁がリクエストし、覇王様が名付けたのは【九尾ここお華菜かな】日本人っぽい名前だが...と思っていると、守り神さ...華菜の体が光を発し始めた。

 力無く倒れる華菜を抱えベットに横たえる。

 覇王様曰く、進化の眠りだと言う。

 今迄の恩返しとして、今日は一日、俺が看病してあげるとしよう。


 ん...目を開けると、ベットに華菜は居なかった。

 どうやら看病のはずが寝てしまった様だ...。


「おはようございます」


 振り返れば元気な華菜の姿。ひとまずは安心だ。


「なにか気付きませんか?」


 よく見てみれば今まで一本だった尻尾が今では9本も生えている。体よりも体積が多い尻尾。

 いつかあれに包まれよう。


「じゃあ、改めて、これからもよろしくね、華菜ちゃん」

「はい!こちらこそよろしくお願いします!主様!!」


 いつの間にか俺は主様になっていた様だ。

 もしかしたら俺も普通じゃないのかもしれない。

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