第46話 運動会が普通じゃない その1

 夏も過ぎ去り木々の紅葉が支配する季節、田舎とは言えど、当然の様に運動会が開催された。

 少人数でどうやってやるのかは知らないが、嫁には考えがあるのだろう。

 神無月とも言われるこの時期は神様は出雲の国に行ってしまうという。

 守り神さんも用事があると言って10月初め頃に出かけて行った。


 その代わりにドミナミさんがベビーシッターとして快の面倒を見てくれることになった。

 神様よりも特徴的な白銀の翼、天使の輪、桃色の髪、巨大な胸。

 出掛けるときは極力隠して貰っている。といっても翼と天使の輪だけだが...。


 大きな帽子を深く被り、出来るだけ肌の露出を抑えた服装にしてもらっている。

 教育上悪いと言うのもあるが、俺も視線の置き場に困るからだ。

 大きすぎる胸には途轍もない吸引力が存在するのだ。


 というドミナミさんの話は置いておいて俺は今、学校のグラウンドに来ている。

 広いグラウンドに白いテントが二つ。

 実況席と保護者席の二つだ、俺が居るのはもちろん保護者席。

 他の家の親御さん達と同じ様に運動会を眺める。


 嫁は実況席で運動会の実況をし、俺はドミナミさんと子供達の雄姿を撮影している。

 撮影と言っても三脚を置いて皆を映しているだけだが...。

 俺が三脚で楽をしているのに対しドミナミさんは手持ちカメラで撮影をしている、それも快の面倒を見ながらだ。まさに神業、子守りのプロフェッショナルなのかもしれない。

 現在の種目は50m走。

 リレーも考えたそうだが、さすがに体格差が酷いので却下となった。それこそ、前年度まではそれが理由で開催されなかったのだ。

 だが、嫁としてはせっかくのイベント、娘達の雄姿を撮影するチャンスをみすみす逃す程うちの嫁はあほではない。


 50m走の後は大玉転がし、玉入れ、ソーラン節、障害物競走、パン食い競争、借り物競争。


 競争系ばっかりじゃないか...まぁ運動会は本来、多くの生徒でポイントを取り合う勝負事...走ってばかりで可哀そうな気もするが、当の本人たちは楽しそうなのでよしとする。


 ソーラン節を終えた後は障害物競走。

 この競技は体が小さい事が功を奏し由衣は堂々の一着、真衣は網を潜り抜けられず永遠に絡まっていた....。


 そして次はパン食い競争。

 手を使わずに吊るされているパンを咥え走り抜ける、ハンデとして学年毎に吊るされているパンの位置が異なる。

 女の子は苦手だったのか、唯一の男の子の零君が余裕の勝利を収めた。


 次は借り物競争。

 始まって早々、お題の書かれているメモを開き真衣と由衣は一直線でこっちに向かって来る。


「ドミママ来て!!」「ドミママこっち!!」


 真衣と由衣はドミナミさんの手を片方ずつひっぱる。

 どうやら俺じゃないらしい...。どこか寂しくもある....(´;ω;`)


 2人のわがままに答える為にドミナミさんは俺に快を託し二人と手を繋いでゴールへと向かった。

 ゴールに到着し合否が嫁によって告げられる。


「真衣選手のお題は...母親!!この方は母親では無いので不正解!!」

「つづいて由衣選手のお題は...大きいもの!!ん~~~正解!!由衣選手ゴールです!!」


 真衣のお題は母親だったのか...。今の嫁はどんな心境で実況をしているのだろうか...。

 今の所、ありきたりな運動会だが...これは午前の部だ。


 この後は家族で昼食を食べて午後の部。

 嫁が言うには、見るだけでたぶん楽しめる。とのこと。


 嫌な予感しかない。間違いなく普通じゃない。

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