第45話 お月見が普通じゃない?

 夏も終わり季節は秋。


 秋の夜空は澄んでいてとても綺麗に星と月を拝むことができる。

 そんな夜空を嫁が見れば、言い出す事は一つだ。


「お月見をしよう!!」

「また唐突だな...」


 確かに月は綺麗だ。

 秋晴れのお陰か月がとても近くに感じられる。


「やるって言っても餅なんて買ってないぞ?」

「それもそうね...」


 嫁はあごに手を当て考える。そして何を思いついたのかあの黒電話に手を掛けた。


「あ、うん、今からお月見するんだけど、遊びに来る?」

「・・・」

「じゃあ、お餅とお酒を持ってきて欲しいんだけど」

「・・・」

「うん、じゃあお願いね」


 嫌な予感しかしないが...なんとかお月見は決行できそうだった。


 少しの間待っていると空色の髪の女性が姿を現す。


「我輩!参上なのだ!」


 現れたのは懇親会でもお会いしたアブソリュートちゃんのお母さんだ。

 両手には【鬼殺し】と記されたひょうたん。

 どれだけ飲むつもりなんだ...と思わなくもないが、まぁたまにはいいだろう。


「む?ここで月をみるのか?どうせならもっと高い所で見たいのだ...」


 どうやら、庭にブルーシートを敷いただけでは不服らしい。


「ついてくるのだ」


 俺と嫁は子供達を連れてデフォルトさんの後をついて行った。


「とくと見るのだ!これが我輩の一夜城なのだ」


 いくら一夜城と言えど、そんな数秒で建つ訳では無い、そこの所をしっかり理解してもらいたいが...現実は違う。

 瞬く間に巨大な城が建設された。

 日本特有のお城でしっかりと鯱が城の頂上に飾られている。


「さぁ行くのだ」


 デフォルトさんが魔方陣を作り出すと視界が一瞬で切り替わり、辺りの森が一望できる程の高所に居る。


 子供達は大喜びだが、俺は高い所が得意な訳では無い。

 はっきり言って怖い。


 まぁそれも下を覗かなければ済む話なので出来るだけ夜空を見る事にする。


 おちょこでちびちびと持って来て貰った酒を飲む嫁。

 流石に俺まで酒を飲むわけにはいかない...。


 と思い、餅を食べていると、守り神さんが俺のコップに酒を注いだ。


「私は飲まないので、今日くらい楽しんでください」

「そうか?別にいつも楽しんでない訳じゃないんだけど...じゃあ今日はお言葉に甘えさせてもらうよ」


 かわいい守り神さんに注がれては断るわけにはいかない。

 酒を一口飲むと視界がぐらりと揺れる。

 なんだこの酒...一瞬で酔いが回って...。


 度数の高さに驚き周りを見て見ると、デフォルトさんは度数の高いこのアホみたいな酒をひょうたんごとごくごくと飲んでいた。


 化け物やんけ...。

 素直な感想が浮かぶ、嫁はデフォルトさん程ではないが、結構飲んでいる。

 というより既に出来上がっている。


 最早お月見どころではなくなり、ただの酒盛りとなった。

 子供達の事は守り神さんに任せておけば大丈夫なので深く考える事無く、もう一口酒を口に含みゴクリと飲み干す。


 酒に支配された月見...どう考えても普通じゃ...いや、普通か...。




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