第44話 お泊り会が普通じゃない その6

 愛菜さんの不正もあり、無事夏休みの宿題を終えた一同は嫁の用意していた花火で遊ぶ事になった。

 広い庭にバケツを用意し火種用の蠟燭を立てる。


 5袋分の花火を買った事もあり、花火自体は大量にある。

 子供達は各々がやりたい花火を手に取り遊び始めた。

 嫁も子供達に混ざり二刀流を披露している、間違いなく子供の前でやってはいけない危険行為だが...それを教師がやっているのだから面白い話である。


 俺はそんな面白おかしい光景を縁側に座りながら眺める。

 隣には退屈そうに眺める愛菜さんの姿がある。


「あれのどこが楽しいのかしら」

「さぁ?見てる分には楽しいですよ」

「そうねぇ....」


 愛菜さんは指先を夜空へと向けると豆粒ほどの炎を空へと打ち上げた。

 それは天まで昇り大きな爆発を生み出した。

 何してんのこの人!?って思ったが、綺麗だったのでひとまず置いておこう...。


「マナ?!あれじゃあただの爆発よ!花火ってのは...」


 同じ様に嫁が天へと指先を伸ばし火の玉を放つ。

 天高く昇った火の玉は大きく爆ぜ、夜空に大きな菊の花を咲かせる。


「なるほどね、あれくらいなら私にだって出来るわ」


 再び天高く火の玉が昇り、今度は夜空に大きな似顔絵が浮かび上がる。

 これが上手い事に愛菜さんの似顔絵になっている。真っ赤な光に地上は照らされる。

 思わず拍手をしたくなった。

 子供達も自分たちで遊ぶのを止め、上空で繰り広げられる打ち上げ花火に見惚れている。


「なかなかやるじゃん」

「この程度雑作もないわ」


 嫁と愛菜さんによって交互に打ち上げられる花火を眺める。


「中々の出来だ。だが、詰めが甘いな」

「そうですか?キレイだと思いますけ...ど...」


 いつの間にか俺の横に居たのはいつぞやの覇王様だった。

 花火に照らされた銀髪がキラキラと輝き揺れる。


「どうしたのよグレース」

「あぁ、現世で魔法をポンポンと乱射してるアホが居ると聞いてな」


 ギクッ!

 という音が聞こえそうな程、愛菜さんは驚き、ぎこちない動きでこちらを振り返る。


「グ、グレース...花火というらしいわ。現世にもある文化だし大丈夫よね?」

「山奥で祭事でもないのに、ポンポンと花火が上がると思うのか?」


 言われてみればその通り。

 一番常識ないのかと思ったが、案外常識人の様だ。


「まぁいい、せっかくだからな。完成された花火と言うものを俺が見せてやろう」


 前言撤回。まともじゃない。

 嫁と愛菜さんが豆粒程度の玉を放ったのに対し、覇王様が作り出したのは大玉転がしで使われるような直径2メートルほどの玉を打ち上げた。


 あれが弾けたらどうなるんだ?という興味はあるがどちらかと言えば、恐怖心のほうが強い。

 一瞬でも常識人だと思ってしまった自分の愚かさを罰してやりたい。


「安心しろ、大気圏手前で爆ぜさせるから地上への影響はない」


 まぁそれならと火の玉の行く末を全員で見守る。


 そして、火の玉は遥か先で8つに分かれ、同時に咲き誇る。

 それは今、この場に居る子供達の似顔絵を浮かべたり、前に懇親会で会った子供達の顔を浮かべたりと、次々に移り変わった。


 一同はその光景にただ魅了されていた。

 流石覇王様...とみんな平伏しそうになったが、それよりも早く、覇王様は愛菜さんを連れて元の世界に戻っていった。


 夏休みの最後の思い出は特大の花火で締めくくる事になった。

 当然だが、みんなの日記の最後には大きな花火の事が書かれていたのだった。


 普通じゃない、最高の夏休みをありがとう。

 余談だが、覇王様の打ち上げ花火は日本全土から確認する事が出来たらしく、次の日のニュースはその話題で持ちきりとなった。

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