第41話 お泊り会が普通じゃない その2

 皆で朝食を食べ終えると家のインターホンが鳴らされた。


「こんにちわ~」


 玄関越しに聞き慣れない声が聞こえる。

 だれの声か分からないが、女の子のものだ。

 待たせるのも可哀そうなので扉を開くと、高校生くらいの女の子がペコリと挨拶をしてきた。


「こんにちわ、真衣ちゃんと由衣ちゃん居ますか?」

「あ、あぁ居るよ。まぁ上がって」


 真衣と由衣を少し大きめの声で呼びつつ、女の子をリビングへと案内する。

 そういえば名前聞いてなかったな...真衣の説明を聞く感じ高校生だし、楓ちゃんのお姉ちゃんだろう。


「名前はなんて言うの?」

「えっと、奏です。妹がお世話になってます」


 お世話した覚えは無いが、とりあえず適当に返事をしておく。話が終わり気まずい雰囲気の中もう少しでリビングに到着すると言う所で、急に楓ちゃんが俺の前へと歩み出た。


「あの!佐藤健太さんって...あの佐藤さんですよね?!」

「ん~きっと人違いだと思うよ?」


 なんとかばれないようにやり過ごしたい...。

 俺がばれる分には問題ないが、親が大人気ゲームの開発者だとばれるのはもっとまずい...。せっかく田舎に引っ越して来たのに...ここで騒がれ、噂が広まり、住みづらくなるのはやるせない...。


 それなのに、奏はぐいぐい来る。

 半ば壁ドンじみた事になり、背後の扉まで押される事になった。

 その衝撃でドアが少し開き中が一瞬だけ奏の視界に入る。


「ここの部屋って....もしかして仕事部屋ですか?!」

「ち、ちが...はぁ...うん仕事部屋だよ」


 もう諦めよう。

 最終的に奏が噂を広めるかどうかにかかっているのだから...。

 それに、この部屋を見てしまわれては良い訳が出来ない。

 部屋にあるのは、仕事用のPC、ゲーム起動用の大きなデバイス、グレースドオンラインの最優秀賞を受賞した時のトロフィー、映画化された際に監督から貰ったプレゼント、声優さんからの物もある。人気な女声優さんから直々に声をいれたいと言われ喜んでOKしたものだ...。


 なんて、思い出に耽って居る時も、奏は部屋に置かれている様々な品物を舐めるように見ている。


「このトロフィーって初めて受賞した時の奴ですよね?!」

「あ、あぁ、それはグレオンを公開した年に受賞した奴だね」

「私、この時も、生放送で見てたんですよ!!」

「あぁそうなんだ...」


 あぁこの子は心底グレースドオンラインに心酔している、ファンなんだ...。

 奏は確信を得たのか持ってきた鞄から金色のプレートを取り出した。


「あの...これにサイン貰っても良い...ですか?」


 奏が取り出した金色のプレートは一般的に使われている配信サイトでチャンネル登録者100万人を達成すると貰えるものだ...。

 ってことは...奏は有名な配信者であり...グレースドオンラインの広告に一役買ってくれた事になる...。

 ならばファンサービス位してあげなければ...可哀そうというもの。


 描きなれたサインにアレンジを加えたものを金のプレートに書きながら、なんとなく思ったことを聞いてみる。


「ゲームはどれくらいいったんの?アプデもあったし、楽しんでくれてるかな?」

「はいとっても!でもやっぱり敵が強くて...今は覇王城の隣の吸血鬼の館を攻略している最中です!」

「ふーん。それはソロ?それともギルメンと?」

「はい!私マタタビ団のギルドマスターなので!ギルメン達と攻略を進めています。実は今日の事も自慢してしまって...」


 マタタビ団...マタタビ団...どっかで聞いたことあるような...。

 その時だった。


「頼まれた布団どこに置けばいいのかしら」

「え....本物??いや...コスプレの方?」


 愛菜さんの登場に驚きつつも必死に脳みそを回転させてる所悪いが...残念ながらこの人は本物だ。

 大好きなゲームのキャラクターが実際居たら...普通じゃないよなぁ...。

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