第40話 お泊り会が普通じゃない その1

 夏休みが終わりを迎えようとしている。

 八月後半と言えど、まだまだ蒸し暑い日は続く。蝉の音が絶える事はなく、しつこいくらい騒ぎ立てる。平凡的な日常の昼前に家の受話器が鳴る。

 娘達は宿題に追われ、嫁はその面倒をみている、近くには俺しかいないので、仕方なく受話器を取る。


「はい。もしもし佐藤です」

「あ、もすもす?」


 ん?クソガキのいたずら電話か?

 そう思い俺が受話器を置こうとすると受話器越しに聞いた事のある声が聞こえてきた。


「すいません!美奈華です...零君がすいません...真衣ちゃん居ますか?」

「あぁ美奈華ちゃんか、ちょっと待ってね、今、変わるよ」


 どうやら学校の友達の様だ。

 ささっと勉強中の真衣を呼び出し、電話を交代する。


「変わりました!」

「・・・」

「この後ですか?大丈夫だと....」


 電話で話しながら目で必死に何かを訴えてくるのでなんとなく頷いてみる。

 すると真衣はぱぁっと顔を明るくし楽し気に告げる。


「良いって!」

「・・・」

「うん、わかったじゃあ待ってる」


 満面の笑みで受話器を置く真衣にどうしたのか聞いてみる。


「今日ここでお泊り会したいんだって!先生も居るし分からないところ聞けるからっって」

「お泊り会...」


 安易に頷いてしまった事を後悔している。

 お泊り会か...言うてもそんな多くないだろう...。


「それで...誰が来るんだ?とりあえず、美奈華ちゃんだろ?」

「うん...あとは、しずくちゃんに桜ちゃんにレイくん、それと、楓ちゃんのお姉ちゃんの奏先輩!」


 ほぼ全員くるんじゃないか...。

 娘から話は聞いてるし知らない名前は...奏先輩くらいだな...。

 妹の楓ちゃんはよく聞くが...先輩っていうくらいだから...高校生かな...。


 まぁ、約束してしまったのなら仕方ないので、嫁にも伝える。

 すると嫁は嬉しそうに支度を始めた。


「ねぇ、布団ってこれだけしかなかったっけ?」


 押し入れの方で嫁が声を上げる。

 気が早いと思うが、既に寝るときの事を想定している様だ。

 人数分の布団は残念ながら我が家には無い。

 大きめの部屋に布団を三枚敷いて州の字で寝ているので予備を含めると5枚ほどしかない。


「ないぞ...どうしたものか...持ってきてもらうのは...無理だよなぁ...」

「あ!そうだ!!」


 嫁が何かを閃いたのか黒電話に向かう。

 悪い予感しかしないが、気にしないようにしておく。


「あ!マナ?できれば布団を何枚か用意して欲しいんだけど」

「・・・」

「買いに行けないんだもん、しょうがないじゃない...」

「・・・」

「うん。うん。今度なんかお詫びするから、っね。じゃあよろしく~」


 あぁ....相手は愛菜さんか...。

 嫌な予感しかしないしどう考えても普通にならない。

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