第37話 お化け役が普通じゃない

 赤チームが肝試しに出発してから10分後。

 街灯すらない常闇に聞こえているのは鈴虫の鳴き声。それと...時折聞こえる悲鳴のみ...。


 少しすると、泣いている娘達を抱えながら嫁がゴール地点に到着した。

 わんわんと泣き散らしている真衣と由衣。最近になって真衣に芽生えてきた小学生のお姉ちゃんとしての矜持など...どこにもない。


 それほどまでに恐ろしいのだろうか...

 かすかに震える指先を自分の手で包み込み深く呼吸をする。


「よし。俺ら赤チームの番だな」

「うん...ただの散歩...怖くない」

「霊なんぞ屍の残りカス。恐れる必要すらない。我が父と共に目指す覇道、骸に臆していては父に笑われよう」


 アブちゃんがまた小難しい事を言っているが気には止めない。

 ルートは家にある裏の勝手口を出て守り神が祀られている祠を抜け道なりに進み、突き当りにある神社の賽銭箱の縁に5円玉を置いて完了だ。


 山道なので、当然街灯はない。

 真っ暗な山道を懐中電灯の灯りだけで歩くのは非常に心許ない...。

 他二人は真っ暗な道でも、平気な顔して歩いていく。俺に渡された懐中電灯も2人がグングンと先を進むので、当然俺の足元しか照らせていない...。

 俺に歩くスピードを合わせてくれればしっかりと照らせるのだが...。


 一応心配してくれてるのかチラチラと後ろを振り向き確認してくれるのは嬉しいが...暗闇に浮かぶ黄金の何かが、点滅するので恐怖でしかない。

 二つあれば目と認識できるかもしれないが、眼帯のせいで一つしか目は確認できない...それがかなり怖い。


 流石に怖いので足早に歩き二人のスピードに合わせる。

 スタスタと歩く二人は何も感じていないのか分からないが、途中から視線をとても感じる。


「ねぇ二人とも...見られている気しない?」

「うん...見られてる」

「当たり前だろう。死した者は哀れにも生に縋る。もう手に入る事のない輝きを死して尚求めるのだ。我とミリィは生命の輝きに満ち溢れておる。生を追い求める者が我らを妬み寄って来るのだ」


 小難しい事を言っているが...要は妬む霊が集まってこっちを見ているという事らしい...。コワスギカ?

 見られている恐怖に足を取られ、上手く足が動かない。

 足が動かない。ん?何故足が動かないんだ??


 ふと足を見てみると真っ白な何かが俺の足首をがっつりと掴んでいる。


「うわっーーーーー!!!!」


 男としての威厳などを捨て去り俺は叫んだ。


「騒々しい。男であるならば我が父の様に勇ましく振舞ったらどうだ?男の叫び声なんぞ、耳障りで仕方がない」

「ご、ごめん...」


 怖さよりも悲しみがました瞬間である。

 眼帯を付けいつも訳の分からない事を言う少女にまさか耳障りなんて言われるとは思わなかった...。


「大丈夫?ケンタはかよわい...命は大事」

「ミリィちゃん...」

「でも...うるさいのは事実...大きい声出さないで...」

「ご、ごめん...」ついて行った


 再び歩みを進める二人に声を殺しながらついて行った....。

 怖いのに叫んじゃいけないなんて...普通じゃない...

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