第32話 川遊びが普通じゃない
夏休み中盤、娘達は暑さで宿題が手が付かない。なんて言い訳を並べるので、皆で川遊びだ。
都会ならプールなんかに行くが、田舎と言えばやっぱり川遊びだろう。
朝起きてさっそく支度をする。
バーベキューセットと浮き輪、それから大きめのシャチ。
色々な道具を車に詰める。
浮き輪なんかも先に膨らませておこうと思ったが、さすがに嵩張るので、向こうで膨らませるとする。
嫁の案内通りに車の運転をすること、10分、綺麗な川が見えてきた。
「ここ!ここ!野口さんが良い所紹介してくれたのよ~」
「以外に近いな...」
驚きの近さに正直引いた。
車で来る必要もないし、徒歩でも良かった気がする、お腹空いたら帰ればいいのだし...。
まぁ、来てしまったものは仕方がない。
俺もしっかり満喫するために釣り道具を持参している。
流石に、この歳にもなって川の水は心臓に悪い。なので、俺は大人の遊びをする。
嫁は遊ぶ気満々なので俺は少し離れた所で遊ぶ。
「パパ~これ膨らませて~」
「シャチかぁ...確かポンプがここら辺に...あれ?」
真衣がシャチ型の浮き輪も持って俺の所に駆けてきた。
探しても探しても車の中に置いたはずの手押しポンプが見つからない。これじゃあ...シャチは無理だなぁ...。
「普通の浮き輪でもいいか?」
「やだ」
「そうは言ってもなぁ...」
流石に人力でこれを膨らませるのは無理がある。
「もう仕方ないな~ほら貸して」
「流石にお前でも無理だろ...」
大きめのシャチは2メートルを超える、さすがに...。
と思ったのもつかの間、嫁のたったの一呼吸で一気に最大まで膨らんだ...どういう原理?
パンパンに膨らんだシャチを浮かべ真衣がその上に乗る。
嫁の異常さは今に始まった事ではないが、まさかこれほどとは...。
真衣と由衣には嫁が付いているので問題ない、快にも守り神さんが付いているので、心配はいらない。
俺には誰もついてないので、一人寂しく釣り糸を垂らす。
「おっ掴んだ」
やっぱこれだよなぁ川遊び。
少しの間一人で楽しんでいると由衣が俺の所に遊びに来た。
「パパ何してるの?」
「ん?パパがやってるのは沢蟹釣りだよ~」
「楽しい?」
何故そんな不思議そうな顔をする...。
川で釣りをするには特殊な免許が必要だと聞いた事がある、俺は嫁と違って色々な免許を持っている訳では無い、釣り道具は昔、部下に何故か貰ったものだ。
まぁ釣り道具と言っても釣り糸と...餌のパン屑だが...。
「楽しいぞ~ほら、こうやって糸を近くに垂らすと...」
「掴んだ!カニさん掴んだ!!」
「な?楽しいだろ?」
泳げない訳では無い、ただ...足が濡れるくらいなら問題ないが、上半身まで水につかるとなると、俺の心臓は多分止まってしまう...。
ちらりと嫁の方を見てみれば水面に立ち、真衣に泳ぎを教えている。は???
うわぁまたやってるよ、もうちょっと普通に遊んで欲しいが...まぁ周りに人いないし、いいか...。
「パパの遊び楽しい?」
「さっきも言ったろ?パパは楽しいの」
「これが?」
「あぁこれが」
なんで何度も聞くの...。
かわいいだろ!?この沢蟹...小っちゃくて赤くて...。
由衣は俺の横にしゃがみ俺の顔を覗き込み憐みの視線を俺に向ける。
「パパの川遊び...普通じゃないね」
え...どう考えたって...俺の遊び方...普通だよね...どう考えたって嫁の方がおかしいよね...
「由衣...それどういう意味...由衣!ゆいぃ~~~!!!」
「ママと遊んでくる~~~!」
えぇ....俺も普通じゃ...ない??
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