第30話 七夕が普通じゃない

 7月7日。

 世間では七夕祭りが開かれている。

 七夕飾りは神様の依り代と言われている。各々が願いを書いた短冊を笹につるし天に向ける。

 ちゃんとした行事までは把握してないが要するに、願いを込めた短冊を木に吊るす行事だ。

 イベントに目が無い嫁が忘れる訳が無く、どこからか笹竹をもってきたのだ。


 日が昇っているうちに願いを短冊に書き吊るす。

 毎年恒例だったが、室内ではなく室外でやるのは初めてだ。

 敷地も広く使えるので、多少騒いでも誰からも怒られる事も無い。


「かけた!!!」

「ゆいも!!」


 2人とも書き終わったようなのでチラッと覗こうとすると物凄い速さで隠されてしまう。


「内緒!!」

「絶対みせない~」


 まぁそうだろうなぁと思いつつ、快が書いたのを覗いてみる。

 これは決して俺が覗いだ訳では無い、快が見せてきたのだ!

 快の短冊には大きな丸2つの真ん中に点がちょんちょんと書かれているだけだった。

 俺は一瞬で察した。快はいまだに、ドミナミさんの乳を忘れられずにいると...。

 俺は触った事ないから分からないが、子供が忘れられないくらいには凄いものなのだろう...


「よし。ママも書~けた!」

「ママみせて~」

「みたい!!みたい!!」


 嫁もどうやら書き終わったようだ。

 短冊を人差し指と中指で挟みひらひらと振り娘達の興味を誘う。

 じっと見つめると、ある事に気が付いた。

 嫁の書いた短冊は両面に文字が書かれている。

 しっかりと見た訳ではないので確証はないが...。


「しょうがないなぁ~...じゃーん!ママが書いたのは【この幸せが続きますように】で~す」


 満面の笑みを浮かべる嫁。

 子供達は確認できた事で満足できたのか笹竹に吊るしに向かう。

 子供達が俺達から目を離した隙に嫁はくるっと短冊をひっくり返す。

 そこには...【健太と一緒がいい♡】と書かれていた。

 小悪魔の様に笑う嫁のせいで俺の老いた心臓は飛び跳ねた。


 こんなおっさんを喜ばせてなにが楽しいんだか...まったく。


 無性に照れくさいので、俺もさっさと願いを書く。

 俺が書くのはもちろん家族のことだ。怪我はしてほしくない、伸び伸びと育ってほしいい、夢も叶えて、それぞれの幸せを掴んで欲しい。


【子供達が元気に育ちますように】


 よし。

 俺が笹にくくり付けていると嫁がスッと俺の横に並ぶ。


「なんて書いたの?」


 悪戯な笑みを浮かべにやにやとし俺の短冊を覗こうとする、片面はばれても構わないがもう片面だけは絶対に死守する。

 さっきの事があった手前どうも照れくさい...。

【綾香の笑顔が続きますように】


 嫁に見られない様に吊るし、嫁の背中を押しながら、その場を去った。


 夜になったらみんなで夜空を眺める。

 都会は明るくて綺麗に見える事はほとんどない、だが田舎は違う。

 辺りは街灯すらあまりない森、綺麗な夜空に散らばった星の輝きが鮮明に見える。

 それは幻想的で、夢のようだった。


 みんなが満足出来た所で家の中に戻り眠りにつく。

 願いが叶えばいいなと希望を胸に抱き、明日を待つのだ。


 朝になると笹竹が丸ごと無くなっているのだ、毎年恒例だが...嫁の事だから直接織姫と彦星に届けているのかもしれない、もしそうだとしたら、普通とは言えない

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