第29話 父の日は訪れない

 母の日に次ぐビックイベント。

 だが...我が家に父の日は訪れない。

 それが何故か...それは単純に最初から祝ってこなかったからである、絵を描くのが好きな俺は自然と毎年絵を描いていた。だが、嫁は違う。


 そもそも、忙しい。

 今日は大型アプデの施工日。

 既に準備は整っているので、後は公開時間を待つだけだ。

 さて...苦情の連絡がどれだけ来るのだろうか....。

 まぁ、来るのは本社に対してなので、直接来る訳では無い、その代わり、クレームがまとめられた書類が纏まって送られてくるだけだ。


 はぁ...。

 父の日に浮かれている場合ではないのだ...。



 全世界が、その瞬間を待っていた。

 超大人気ゲームの正式なエンディングが公表されるのだから。


 運営としてはクリアできると思わない、そのエンディング。圧倒的強さを誇る敵のステータス、そしてクリア後の裏世界...一応エンディングムービーも用意されているらしいが...

 ゲームのネタバレをあえて言うならば、覇王城を攻略し玉座の間へと足を進めると、そこに王はいないらしい、そして裏世界への扉が開かれるのだ。

 そしてその裏世界で、再び覇王城を攻略すると...玉座の間に覇王が現れるのだと言う...。

 うん。無理。

 誰がそこまで行けるのだろうか...そもそも裏世界に辿り着けるとも思えない。


 ネットの掲示板を見つつ、動画投稿サイトも開く。

 既に様々なチャンネルが、アプデ待機とタイトルを付けて公開時間を待ちわびている。

 公開PVには堂々と「ついに...終幕」なんて出してしまっているので...引くに引けない、まさか理不尽な程強いとは思っていないだろう。


 そして...公開時間が訪れる。

 数分後、掲示板には多くの書き込みが寄せられた。主に覇王城の事について。

「ギルド総出で行ったが城門で全滅させられた」「ステータスが見れない」

「城が豪華すぎる」「レベル上限解放は助かる」「無理げー」


 ネットの掲示板は大いに盛り上がっている。

 そして動画の配信の方では、トッププレイヤーが攻略に勤しんでいる。


 公開から一時間、城門突破者0人。

 公開から1日、城門突破者0人。


 案の定だったが、プレイヤーの士気は高い。それが何故か、それはレベル上限解放のお陰だ。

 いままで、イベントランキングでトップ10に入らなければ限界突破することは出来なかったが、現在ではそれが撤廃され、余剰分の経験値がレベルに換算され、一気にレベルが上がったからだ。レベル上げの価値があるなら、レベルを上げて挑めばいい。

 プレイヤー達はレベル差のせいで相手のレベルも、ステータスも確認することは出来ない。只々強いということしかわかっていないのだ。


 ほんとは家族と過ごし、のんびりと休日を過ごしたいものだ...。

 父の日は訪れない...






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