第28話 仕事は普通じゃない その5

「俺は戻るぞ、こう見えて俺はかなり忙しいんだ」

「あ、うん...」


 そういい残し、男は去った。

 静まり返った部屋で残された俺達は互い目くばせしあう...


「いったい誰なんですかあの人!?絶対おかしいですよね!?突然現れて突然消えちゃいましたよ!?」

「落ち着いて」

「えっ?!でも?!魔法?!もしかしてゲームのキャラクターが意志を持って?!」


 恵那は狂ったように部屋中を走り回る。

 ぶつぶつと何かを呟きながら走るその様ははっきり言って怖い。


 こんな狂った彼女は見た事がない。


「あの...私そろそろ元の世界戻りますね...」

「あ、はい、お疲れ様です」

「アップデートは3日後ですよね...有給取らないと...」


 最後に現実味のある単語を残し、カウガールは去っていった。

 俺らも戻るとしよう...。


 携帯を使い、自宅へと電話を掛ける。


「はいもしもし佐藤家です~」

「えっとドミナミさんですか?」

「はい~どうですか~先程ご主人様の魔力を感じましたけど~」

「知ってるんですね...えっと...そろそろ帰りたいので...僕たちを戻す事できますでしょうか...」

「いいですよ~」


 嫁は俺の肩に掴まり、取り乱す恵那を置いて逃げるように家に帰った。


 家に帰った俺と嫁をドミナミさんが出迎える。

 両腕には真衣と由衣が掴まり背中に快がぶら下がり、気持ちよさそうに寝ている。

 どうやって羽で支えているか分からないが、気持ちよさそうだ....羨ましくなるほどに...それに真衣と由衣は小学生にもなって片腕で抱かれながら眠っている。

 その細い腕でどうやって...。


 娘達は溢れる母性に抗いきれず眠りに落ちたようだ。

 気持ちはわかるぞ...。


 母性で言えば間違いなく嫁よりもある。いろんな意味で。

 まさに、ママ。大人さえもその深い谷に落ちていく事だろう...。


「名残惜しいですが、私もそろそろ帰らせて貰いますね。大変かわいらしい子達でしたので、また呼んで頂けると幸いです」


 子供達をそれぞれの寝室に寝かせた後ドミナミさんは元の世界へと帰った。


 母性が去ったのが余程ショックだったのか快は泣き出した。

 不思議に思った嫁が宥めに行くと快は言葉を発した。

 それも単語単体ではなく3つの単語を繋げた言葉だ。初めての快挙だ。今まで話せたとしても2単語までが限界だった。「おなか すいた」や「これ なに」などだ。だが今回は...。


「ママ チチ ナイ」


 面白い組み合わせだと俺はクスリと笑い。嫁に死ぬほど怒られた。


 こんな事で怒るなんて...普通じゃない(笑)

 そんなこんなで俺達の仕事は落ち着いた。

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