第21話 母の日が普通じゃない
母の日。
日頃の感謝をお母さんに伝えようというイベントだ。
比較的父親よりも好かれている母親はこの日に感謝と共に色々なプレゼントを渡されたりする。
父の日と違って広く認知されている。どうしてだろうか...(´;ω;`)
娘達のプレゼントは似顔絵だった。
決して絵が上手い訳ではない、無骨で特徴も捉えてはいない、だが、その絵には愛が込められていた、それを貰い嫁は感涙にむせぶ。
やはり、これだな。
娘達のプレゼントに感激していた嫁ならば、きっと喜んでくれるだろう...。
俺は後ろ手に隠していた色紙を手渡した。
「いつもありがとね」
日頃感じている感謝の念を込めて優しく伝える。
喜んでくれる事間違いなしだ。
何せ俺の絵はうまい。
嫁の特徴をしっかりと捉え、しっかりと愛情を込めて描いている。嬉しくない訳がない。はず...。
だが、思った以上に反応が悪い。
俺の時も感涙にむせてくれてもいいんだが...。
「守り神さーん。少しこの子達の面倒見てくれるかしら~」
チリーン。
綺麗な音が響く。そして鈴の音に導かれるように、娘達はその部屋を後にした。
残された俺と...般若の様な嫁。なぜ?
なにが逆鱗に触れたのだろうか...怒っている意味が分からない。
「私が何を言いたいかわかる?」
「すいません...わかりません...」
「はぁ、私だってこんなめでたい日に怒りたくなんてないのよ...」
「でしたら穏便に...」
深く溜息をつく嫁を必死に宥める。
「ねぇ、8年前の母の日覚えてる?」
「えっと絵を描いて渡しました...」
「そうね...私が生まれたばかりの真衣を抱いている所を描いてくれたよね」
「はい...」
この流れは理解できた...。
「じゃあ4年前は?」
「大きくなった真衣とまだ赤ん坊の由衣とでご飯を食べている時の絵を描きました...」
「じゃあ去年は?」
「快に悪戯されている所を描きました...」
再び大きく溜息をつく嫁。
「で...今年は...」
「懇親会で、子供達と遊んでいる所を描きました...」
「はぁ...なんで毎年絵なのよ...そりゃあ、嬉しいけど、もっと別のが欲しいの...わかる?この気持ち...」
「いや、でも、今年のは結構作画コスト掛かってて...一杯子供いるし...」
呆れた表情を浮かべる嫁。
「今日一日!私の指示に従う事!いい?」
「わかりました(´;ω;`)」
そして...馬車馬のように働かされた...。
洗濯に始まり料理のアシスタント、それも医者に付く助手の様に箸と言われたら、菜箸を渡すみたいな、アシスタントだ。
鼻歌を口遊みながら料理を作る嫁の横で必死になり汗を垂らす俺。
料理の支度が終わったら今度は風呂掃除、最後に快を寝かし付け終了...ではない...。
「じゃあ次は肩、揉んで貰おうかな」
「はい、ただいま!」
座椅子に座りのんびりと過ごす嫁の肩をじっくりと揉む。
驚くほど肩が凝っていない。
そんな嫁は俺が描いた色紙を見て笑みを浮かべる。
「やっぱり、来年も描いて貰おうかな」
普通は特別なプレゼントを贈るのかもしれない、だけど我が家では毎年、嫁に因んだ絵を贈っている。普通じゃないかもしれない。でも俺は、俺の傑作をうっとり眺める嫁を見ると、嬉しくて仕方がない。我が家の母の日はきっと普通じゃない。
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