第20話 子供の日が普通じゃない!その7

 ついに来てしまった...。

 混沌の神の話が本当ならば...今迄会って来た普通じゃない人達の旦那な訳だ...どうせ普通じゃない。


 俺は一度深く深呼吸をしその男を見つめる。

 銀色の長髪は腰まで長く美しい、深紅の瞳はどこまでも朱く深い。

 着飾る衣装には炎の柄が刺繍されており、そのコートの下の鎧は黒で纏められている。


 ワイングラスを片手に持ち優雅に椅子に座る様はまさに王。

 威厳を振りまくので、とても、と・て・も!!話しかけづらい...。


「いよ~グレース~聞いたよ~皆と週一なんだって~?」


 はぁ!?

 俺は開いた口が塞がらなかった。俺の嫁は何故そんな事を第一声で言い出したんだ...せめてもっと別の言葉があっただろう...。

 フランクに話しかける嫁に対し呆れるように男は笑う。


「相変わらずだな...内面だけは年相応かと思ったら....まったく...少しは成長したらどうだ?」

「私はいつまでも若いのよ、年相応っていうならグレースはどうなのよ、今や、8児の父なのよ?少しは落ち着いたのかしら?」


 若干煽り気味でいう嫁に俺は胃を痛める。

 今ほど胃を痛めた事は過去にない、痛みを通りこして虚無へと至ってしまった。


 感情が死にかけている俺を他所にフランクな会話は繰り広げられていく。


「っふ、相変わらずだな。さて、仕事の話をしよう」


 男の雰囲気が変わる。

 突如手の上の空間が歪みだし、そこから良く見慣れた小物が出現する。


「次の大型アップデートのデータが入っている。後日デバッカーを送るので、確認作業を頼む。能力調整及びバランスの確認だな」

「わかったわ、期日とかはあるのかしら」

「いや、特にない、そっちでアプデできる時にしてくれ、最後の計画は5年後を予定している」


 計画?アプデ?一体なんの話を...。


「そっちに送るデバッカーはいい子だから、優しくしてやってくれ」

「私がいつ厳しくしたのかしら?」

「わかったわかった、それでいい」


 後で聞かなければならない事が山ほどあるがどうやら話がまとまったらしい。

 嫁に置いて行かれそうになるので、俺は逃げるように後をついていった。


 その後はのんびりと食事を楽しんだ。

 どの料理も絶品でほっぺたが落ちる程だった。俺も嫁も久しぶりのご馳走に橋が止まらない。


 ゴーン。

 ゴーン。

 綺麗な鐘の音が響き渡る。

 なんの合図なのか分からないので、辺りを見渡していると、眠そうにウトウトとしている娘達の姿が目に入る。


「私達そろそろ帰るわ」

「そうか、なら送ってやるとしよう」


 男がこちらに手を翳すと瞬時に視界が切り替わる。


「戻って来たのか...」


 見慣れた家具と匂い。時間的には三時間程だが体感ではそれ以上だ...疲れた...。

 胃がもういろんな意味で限界だし、神経がすり減った...。


 俺は娘達と一緒に布団に倒れこんだ。


 しばらくは動きたくない...。でも...。

 隣ですやすやと笑顔で寝ている子供達の笑顔を見ると懇親会も良かったと思える。

 ただ...出来ればもっと普通が良かったなぁ...。

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