神絵師、注目を浴びました。
らくがきそふとさんの所へ入社…つまり初出勤となった、2週間後の朝。
契約による仕事は今日の夕方、つまり今日は講義が午前中で終わる日だから講義を受けたらその足で会社へ向かう運びとなっていた。
「ねぇねぇこーちゃん。いつ触手おちょうさんの絵を描くの~?」
一応ななみさんや水鳥さんとの協議をした際に、今後はお絵描きの頻度を上げてほしいということだったため、ドローイングは最近毎日続けている。
そのたびにガメツのおちょうさん&触手のリクエストをもらうが、そんなモノに引っ掛かるわけもなく。
「今日はリクもらって何枚か描くつもりだけど…触手は描かんぞ」
「えぇ~!? ヒドゥイよ! 信じてたのに! こーちゃんのバカ! もう知らない!」
バカにバカと言われる筋合いはないのだよ。
わとぅそん君。いや誰だよワトソン。お前かシャーロック。
「二度とお前のジャンルは描かんからな」
「ご~め~ん~」
やかましい幼馴染を引き連れて講義室へ向かうと、先客がいた。
「ん? あぁ、鍵谷に紫咲。三週間ぶりか?」
「よっすたかちゃん! 三週間ぶり~」
「そんくらいだな孝宏。久しぶり」
「顔色良くなったな。湊にでも飯を食べさせてもらったのか?」
「ハハハ。俺に死ね言うてるんかワレ」
「ハハハ。冗談だ」
大谷孝宏。昔なじみの一人で仲間だ。相変わらず服の上からもわかる筋肉で外見が暑苦しい。
「ましろは最近元気なのか?」
「うん? んー…どうなんだろ。夜型だしゲームばっかりだし。というか、お前らが大学こないからアイツも来なくなってたんだぞ。俺の方が知りてぇわ」
湊ましろ。幼馴染みの一人で仲間だ。今はいないもう一人の幼馴染はこれで通算2か月近くも顔を合わせていない。生きてるんかね?
「流石に心配だな。あいつはあとでお見舞いに行くか…」
「それがいいね~。どうせこーちゃんがいけばすぐに元気になるでしょ」
「そんなもんかね? いつも元気だと思うけど」
「こーちゃんがいればいつもだよ」
航がニヤニヤしている。その隣では孝宏もニヤニヤしている。いっつもそうだ。
けっ。
「お前はどうなんだよ。最近の『仕事』は」
ニヤケ面を回避させるべく、話題を逸らしていく。
そのことに気づいてさらに鼻で笑ってくる孝宏、それが絵になるからムカつくけど我慢しなきゃ。
「いいよいいよ。話題にノってやるさ。っていってもここ最近は変わらんけどな」
「まだクレジットは載らないの?」
「いんや…。師匠曰く、書いたものの半分を修正されているようではシナリオライターとは呼べないってさ。実際その通りだし、俺にはまだ実力足りんからなぁ」
「でも今度は修正が半分なんだ? やるじゃん! さすがたかちゃん!」
「んだな。半年前まで毎回全没くらってた人間とは思えない成長ぶりだわ」
「まだまだだよ。最前線にいるお前らに並ぶにゃ全然届かないっての」
こいつも俺らと同じ、業界で戦っている一人だ。と言っても今はゴーストライターで働く傍ら、ゲーム業界のシナリオを現場で勉強している。
3人で同人誌を作るときもなんだかんだでシナリオを描いてもらってるときもあるし、幼馴染にして業界の看板が勢ぞろいしているといっても過言では…過言か。
「俺には向いてない世界だから…この中で一番文才あるのは孝宏だしな」
「ま、そんなたかちゃんが「シナリオライターとは呼べないなぁ」…なんていわれてるんだから、おれらにゃぁ一生無理よなぁ…」
「チャンプ看板作家が何言ってんだボゲ」
「お前が一番の売れっ子だろうがダァホ」
「ヒドゥイ!」
外から見れば俺たちもこの大学内ではただの一学生。どこにでもいる一人だから、気にされることなくバカ話を続ける。今日も今日とてなんてことない日常…が続くと思っていた。
「なんか騒がしいね…どうしたんだろ?」
「あん? ……誰か違う人が入ってきたみたいだぜ」
俺たちの視線が出入り口の扉に向かうと、そこにいたのは…。
「…誰かと思えば赤月さんじゃん」
「…ねぇこーちゃん…赤月さんって…」
「……。たぶん間違いじゃないと思う…思いたい」
室内をゆっくりと見回して誰かを探している…と思う赤月さん、こと「
……この場から逃げたいなぁ…。
「……あ、康太君! 今日はこっちの講義室だったんだね♪」
「んー、そうですね赤月さん」
「あー…やっぱり」
「は!? えっ、はぁ!?」
「「「えぇぇぇぇ~~~~!!!!」」」
一気に室内が騒ぎ出した。なんかのスキャンダルかな、このとき俺は他人事に思った。実際他人事にしたかったけど、
「紫咲さんに………大谷さん。康太君をお借りしてもよいでしょうか?」
目の前でニコニコしているななみさんを前に、テンプレというものを理解している孝宏は遠慮なく放り出すでしょ。
そして同じノリでそのうえうちの守秘義務を理解してる航も…。
「どうぞ~。大事な話だろうから、今なら食堂か屋上なら人もいないと思うよ」
「あら。ご丁寧にありがとうございます、紫咲さん」
「いえいえ。うちのこーちゃんをよろしくお願いしますん」
おかんか。
「うふふ。お任せください」
いやだからおかんかて。
「それでは康太君、参りましょう」
「ん、わかった……航、あとよろしくな」
「はいはいりょ~かい♪」
全員の視線をひと手に受けながら、彼女の後に続いて講義室の外に。
…ツレェ。
☆★☆★☆★
つかつかと歩き階段を上り、たどり着いた先は庭園広がる屋上。
そこは航の言った通りで誰もいない。ほんとあいつはどこから情報を拾ってくるんだろうか。
「えへへ…やっと康太君と会えました」
「ん…赤月さんとは少し前に会社で話をしたと思うけど」
花が咲いたかのような可愛らしい笑い方だけど、表面上
言っても3週間だ。
席やら液タブやらの環境を整えるために~とかの理由で出勤が後々に回っていたが、一番の理由は。
「ちょっとでもあってないと不安になるんですぅ」
ちょっとだけ、ムッとした顔になるななみさん。
恥ずかしくて素っ気ない態度になってしまい、へちゃむくれるななみさん。
「むー…康太君、また赤月さんになってます…」
「……勘弁してくれ…。誰かがいるところでななみさんって呼べないよ」
「…ぇへへ…。そういうことなら許してあげます」
ほっ、よかった。
「でもいつかはみんなの前でもななみって読んでもらいますからね?」
「はいはい」
そんな日はこないでしょう。
というか呼び捨てに変わってるし。ランク上げてきたなこの人。
「…で、わざわざみんなの前で俺を呼んだのは…何か理由でも?」
「んと…ないわけではないですが…えっと…」
もじもじするななみさん。
これはこれで可愛いけど。
「仕事の話? それともプライベート?」
「あ、えっと…その…両方なんです…」
「…?」
「えっと…そのぅ…ら、Rhineを教えてください!」
「……はいどうぞ」
何を戸惑っていたのかと思いきや…そういうことね。
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