神絵師、Rhineを交換しました。

 スマートフォンからRhineのID交換画面を起動して赤月さんへ手渡した。

 って、よく考えたらあの時は名刺も交換してないし…そりゃななみさんとは連絡も取れんよな。お互いに知ってるのは業務用のメールアドレスだけだし…。プライベートのやり取りを会社用のアドレスを使うのは話が違う。それにあの会社を抜けてからメールアドレスも使ってないし、例えななみさんが送っていたとしても気づくことはない。

「い、いいのですか!?」

「良いも何も…どちらにせよ水鳥さんに言われた通りにこの後会社へ行きますし…。というか、すでに水鳥さんと来宮さんとは連絡先を交換してますし…来宮さんにいたってはRhineでずっとやりとりしてますし…おすし」

 水鳥さんは業務連絡以外での連絡はなかったけど、あの手際は流石取締役の人だなと。ただ来宮さんからは質問やプライベートについての連絡ばかりで、今日にまでずっとRhineの通知音が鳴りやまなかった。ちなみに、あの見た目通りに好物はオムライスらしい。俺も好きだよ、オムライス。

「ほわぁぁ!? て、手が早い! う、裏切りなのです…」

 ななみさんの中に来宮さんが降臨なさった。

「うぅぅぅぅ……」

 そして涙目である。

「まぁまぁ…。赤月さんも連絡を交換したことだし、いつでも連絡していいから」

「言いましたね! じゃあ今日からずっと送っちゃいますからね!!」

 重い重い…。

 と、そこにピコンとスマホから反応が。

 相手はもちろん赤月さん。…名前はそのままのようだけど…。

 ――あなたは|好きですか? ←ななみさん

 ……。

「……良いセンス、してるね」

「えへへ~♪」

 褒めてねぇわ。

「あ、それと康太君もうちのグループに追加しておきますね」

 言った後にポコンと反応が。どうやららくがきそふとグループができたようだ。

 ―――グループ作りました! ←ななみさん

 ―――社長、ありがとうございます。これで連絡がしやすくなりました。 ←水鳥さん

 ―――わふ!よろしくなのです! ←来宮さん

 …わくわくしながらななみさんがこっちを見ている。仲間になりますか?

 と、テロップがでてきそうな。

 ―――よろしくお願いします。 ←俺

 …無難に返しておいた。

「今までなかったのが不思議でしたけどね」

「まぁ聖ちゃんもさくらちゃんも基本は会社にいますし…業務のやり取りはそれこそメールやアプリが基本ですからね。プライベートはRhineが一番です」

「それもそうね…あ、プライベートと言えば1つ相談したいんだけど」

「…なんでしょうか?」

「この間納期前でなければ自由に仕事を受けて良いということで契約したけど…、他社…というか身内の業務委託は個人で受けても問題ない?」

 気になってた受注の話を切り出すと、すぐさまななみさんは社長の顔に。

「そうですね、お互いの守秘義務に反しなければ今の契約で問題ありませんよ」

 すんなりと通ったので一安心する。

 …え? 航のためだろって? ツンデレって?

 ……。…うっせ、ばーかばーか。

「ちなみに…どなたか身内で何かをされてる方がいらっしゃるのですか?」

「あー…まぁそんなところだね。迷惑はかけないから、その時は融通してくれるとありがたい…かなぁ?」

「ふふ、わかりました♪ そのときがきましたら遠慮なくおっしゃってくださいね」

 今度は裏もなく花が咲いたような満面の笑みだった。

 ……あとで航に話しておこう。

「そろそろ講義の時間も始まるから戻ったほうがいいんじゃない?」

「うん、そうだね♪ えへへ、じゃあまた「後で」ね」

「……ん、またあとで」

 スキップしそうな雰囲気で室内に戻るななみさん。

(教室戻りづれぇ……)

 ……スマホを取り出してRhine通話で航を呼び出す。

『はいはーい? 話おわった?』

「あぁ、終わったけどそっちは……」

 教室内でちょっとした騒ぎがまだ続いていた。

『ご覧の通りだよ。今すぐは戻ってこない方がいいんじゃないかにゃぁ?』

「…みたいだな。すまんが今日はこのまま会社に行くわ」

『ん、それならおれもこのあと仕事場にいくぜ☆』

「そ。悪いな、今度飯奢るわ」

『あいあーい。たかちゃんにも伝えておくねん』

「よろ」

 通話終了をタップ。カバンを取りに戻るのは…面倒だな。

 「カバンだけよろしく頼むわ」と航にRhineを送った後に「今から会社に向かいますが、大丈夫ですか?」と水鳥さんに送信。返信があるのはもう少し立ってからになりそうかな?

 ポケットにスマホを突っ込んで目立たないように大学を後にした。

 あとで教えてもらったけど、その日大学ではちょっとした炎上が起こったそうな。航には内心で感謝だけしておこう。

 なむなむ。




 ちなみに、会社に向かう前に幼馴染の家に行ったが、結論から言うと湊ましろは生きていた。大学の様子とは裏腹に、シミもたるみもない柔らかそうな真っ白のお腹をだして幸せそうにぐっすり寝ていた。

 腹出したままで風邪をひかないように毛布を掛けて、ニヤニヤしているましろのお母さんに声を掛けてから出勤することに。

 お腹だけにってか? やかましいわ。


 ☆★☆★☆★


「それで、会社に避難をしてきたのですね…」

「ななみさんは悪くないんですけどね。同じ大学だということを忘れていたのはアレでしたが…」

「あ~。アレじゃあ仕方ないのですよ」

「お仕事の経緯も経緯ですから、周りに目を向ける余裕がないのは仕方ありませんよ」

「あはは、お恥ずかしい…」

 水鳥さんに連絡をしたところ、すでに会社にいるようなので、銀行に寄ってから避難した。

 しかしそこは真面目な水鳥さん。優先は学業なのだからとお小言を頂いたが、ななみさんの話をしたところ呆れたような溜息を吐きながら、理解を示してくれた。

 そして「まぐろ」と書かれた白Tシャツを着て同意をするさくらちゃんは今日も可愛い。

 聞いたところ水鳥さんも同じ大学に通っていたようで、大学3年らしい。

 文学科で2年までで単位を全部取ってしまったようで、後は3年次と4年次の必修を取ればもれなく卒業できるとか。すげぇ。

 と、感想を伝えたところ「手間なものは先に終わらせておく方が、相手に伝える説得力が増すんですよ」と真顔で言われたので、目を合わせられなかった。

 もう一人の絵師こと来宮さんは、大学ではなく専属で会社に就職という形をとっている。発注もそうだけど、イラストに携われるのはすべて来宮さんだけとのことで、大学に行っている時間がないという。という建前らしいが、本当の所は彼女の頭脳ではななみさんや水鳥さんと同じ大学に進むことができないとか。

 GMARCHと遜色ないうちの大学どころか、その下にも届かない。そのうえコミュ障で他人と話せない上に絵を描く以外何もできない俺と同じらしく、会社に拾われる形で入社、もとい専属グラフィッカーとなった。

「そういえば、みなさんはどういった経緯で知り合ったんですか?」

 二人も今は企画待ちということらしく、外注を請け負ったりほとんどないに等しい事務作業などで雑談に興じていた。

 広告や宣伝などは水鳥さんが行っているけど、今のところはスケジュールも余裕があるらしい。

「そうですね…もともとは私がななみを夏コミに連れて行ったのが始まりでしょうか?」

 え、まさかの水鳥さんから?

「もともとななみとは個人の付き合いがあったんですけど…学園生の頃に私が夏コミの企業ブースに用事があったので、親と一緒にななみを連れて行ったんですけど、そこでななみのナニかが琴線に触れたみたいで…これがやりたいってその日に私を連れて自分の親に直談判したのがきっかけですかね」

 親にエロゲを作りたいと?

 逆によく言えたな…。

「あ、言っておきますと、ななみはもともとエロゲプレイヤーですよ?」

「what the f○ck!?」

「かぎやさん!?」

 おっと。

「ご両親は株式会社Noname代表取締役でそのブランドの一つ「絵画」のメーカー代表ですから、そこから派生したうちの会社は、いわば絵画の子会社にあたります」

「wtf!?」

「略!? よく言えましたね!? 逆にすごいのです!?」

 絵画って言えばエロゲメーカーのなかでもかなり老舗ブランドにあたるメーカーじゃん! え、ってことは…。

「ななみさんってもしかして…」

「そうですね、社長令嬢でもありますね」

「ななみさんを初めて知ったときはびっくりしたのです」

 ななみさんと初めて会った時は俺もびっくりしたな。ぼろぼろの社長で…。

 とはいえ、水鳥さんの行動力がなければらくがきそふとさんは生まれなかったわけで。ななみさんもそうだけど、水鳥さんも負けず劣らずで凄い人なんだな。

「あぁ、私は一般家庭ですよ? 両親はどちらもちょっとした専業ですが…」

「ひじりさんの家系もちょっとどころじゃないのです…」

「え、来宮さん? それどういう…」

「うーん…なんと申しますか…私の親もゲームを作っているので…絵画で…」

 ………。

 ほぇー、すっごい。 ←小並感

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