第5話

俺は詩織を連れてゲームセンターにやってきた。


デパートメントストアの隣に位置する。


詩織の買い物に付き合うついでに、ゲーセンに寄った。


「今日は何のゲームをするの?」


詩織が尋ねる。


「英雄の咆哮だ。二ヶ月前にサービスがスタートしたゲームで、自分の英雄と相手の英雄を戦わせて、相手の英雄を倒せば、確率でその倒した英雄が自分の味方になる。強い英雄を揃えて、ボス討伐を目指すのさ」


大きな長方形の画面。

手元の台には左右に円型のボタンに中央に剣が配置してある。


「いいね。それ私もやってみたい!」


「いい心掛けだ。1回1コインだぜ」


「はーい」


詩織はコインをゲーム機に挿入すると、

「ゲームスタート!」と元気なナレーションの声が響く。次にコース選択の画面となる。


「千歳君、どのコースを選べばいいのかな?初心者は難易度1の駆け出しの洞窟がおすすめになっているけど」


「駆け出しの洞窟は違うな。英雄ディスクを持ってなくても、最初から最高難易度のステージのステージを選べばいいよ」


「本当に?勝てるかな?」


英雄ディスクがない時は、全英雄の中からランダムに2人の英雄が召喚される。レンタルできるが、これらの英雄は仲間に出来ないので、道中で倒した英雄で最終的にはパーティーを組む必要がある。


「このゲーム何回戦闘あるの?」


「4回だ。回数が増えるほど、敵が強くなるから気をつけろよ」


「分かった。ありがとう」


1バトル目。

まずは英雄ガチャから始まる。

1戦目は基本的にどの英雄が出ても、大体は勝てる。問題は2戦目だ。


英雄にはグレードが1から6まであり、グレード6の英雄が1番強い。


「英雄クリムと英雄シン。両方ともグレード2だって」


「クリムとシンか。スタンダードな英雄が来たか」


敵の英雄は英雄カリンと英雄マユ。

両方ともグレード2。


ナレーションのバトルスタートの合図で戦闘が始まる。


「ち、千歳君、私は今何すればいいの?」


少し慌てた様子で、詩織は聞いてくる。


「最初はどちらかの英雄に剣を向けて、剣のボタンを押すんだ。そしたら、その剣を台に戻して、とにかく左右のボタンを連打しろ。そしたら英雄のアタックゲージが貯まるから」


「これ、その、すごい、はやく、もっと、キャー!」


詩織が珍しく興奮してる!?


詩織のやつあんな高速連打できるのか。凄い。


このゲームは連打が速いほど、英雄で技を放つ回数が増えるので、今のスピードなら3回目のバトルでも、敵の2倍のスピードで攻撃出来るはずだ。


「千歳君、アタックゲージ溜まったらどうすればいいの?」


「剣を持って、英雄の特技を使うんだ。英雄の特技ごとに剣の振り方の指示がゲームに表示されるから、その通りに剣を振れ」


「分かった。えい、えい、そう、とお、ありゃ!」


無邪気な子供みたいで、なんか可愛い。というか面白い。


英雄シンの火炎斬。

英雄クリムの氷河斬り。


火属性と水属性の組み合わせは幅広く、相手の英雄に弱点をつける。


敵の英雄マユ、カリンのグレードは2。同じグレード2同士となると、ステータスの差が殆どなり、属性の有利不利によって、バトルのダメージレースは変わる。


「火属性は木属性に弱い。英雄マユは木属性だからシンの火炎斬でマユを倒せ」


「分かったよ、了解!」


バトル時間40秒の中でなんとか、マユとカリンを倒した。残りHPをかなり温存出来たので、次のバトルも余裕を持って戦えそうだ。


英雄を倒したので、スカウトタイムとなる。


英雄を倒した時、スカウトができる確率が表示される。カリンは85%マユは82%。1戦目の英雄はスカウト率が高いのだ。


駆け出しの洞窟はグレード1の英雄しか仲間に出来ないので、最初から高難易度のダンジョンに潜った方が、パーティーを強化できる。


「2人ともスカウト成功か。コインを払えばどちらか好きな英雄をスカウトできるから」


「どっちの英雄がいいのかな?」


「セオリーでいくなら、今、火属性と水属性の英雄がいるから、木属性のマユがいいと思うが」


「でも、英雄カリンの方が私好みだからカリンにしよ」


「なら、最初から俺の意見を求めるな」


「聞いた上での判断だよ。意見を聞くことで、自分の選択が正しいかどうか分かるから」


「あえて正しくない選択肢を選ぶのか」


詩織の駄々で英雄カリンを選んだが、英雄カリンは火属性。相手の英雄に水属性がいたら、その英雄に弱点をつけないのだ。


2戦目からはグレード3や4の英雄が出てくる。


「詩織、連打だ」


「え、何で」


「咆哮が始まるからだ」


「う、うん」


画面に咆哮チャージだと連打を催促するメッセージが流れる。


ダダダダダと素早い連打で画面の咆哮メーターが一瞬に400%を超える。


2戦目だ。


相手の英雄は

ラバールとエルだ。

火属性と木属性。

火属性のラバールは水属性のクリムで、木属性のエルはカリンとシンで弱点をつける。


「私、なんとなくこのゲームのコツ分かってきたよ」


「そうか?」


「英雄でゲージを貯めて、特技でダメージ与えて、英雄をスカウトすればいいんだよね」


間違ってない。

間違っていないが、このゲームはそんな単純では無いのだ。



「え、何これ!?なんか変な能力発動したよ?」


そう、それは英雄が持つスキルだ。

スキルはグレード3以上の英雄が持っており、例えば、HPを毎ターン回復したり、相手のアタックゲージが溜まるのを遅らせたりする。


「グレード3やグレード4はスキルがあるんだ」


エルは攻撃後、相手の防御力を下げるスキルを持っている。


ラバールは弱点属性の英雄が攻撃した後、受けたダメージの5%の数値分、相手にダメージを与えるのだ。


「3体の英雄ともやられちゃった。どうしよう」


「ここまでのようだな」


バトルが終了し、you loseと表示される。


でもこれで終わりではない。


負けても、スカウトは出来るのだ。

確率は倒した時より、低くなるのだが。


ラバール35%

エル32%


「あ、エルを仲間にできた!やったよ千歳君」


「よかったな」


詩織は台の挿入口からディスクを取り出し、2枚をまじまじと眺める。


「ゲームセンターのゲームも悪くないだろ。ただお金が掛かるから、何回も出来ないところはあるが」


「うん、楽しかった。カードゲーム以外にも楽しい事ってあるんだね」


詩織はカードゲームばかりで、他の趣味がほとんどない。詩織には色んな楽しいことを教えたい。


「当たり前だろ。これからも色んな楽しいこと教えてやるよ」


「ありがとう」


別のゲームもいくつか遊んだ後、俺たちは店を出た。


「俺さ、楽しい時間が永遠に続いたらいいなーと思うことがあるんだ。これから高校受験があって、更に先には就職活動があるだろ。忙しくて楽しくない時間が無くなるくらいなら、今がずっと終わらないで欲しいな」


すると詩織は俺と歩調を合わせていた足を止めた。


「どうした?」と言うと詩織はゆっくりと口を開いた。


「私はそう思わないよ。確かにこれから忙しくはなるけど、本当に楽しくないことばかりかな?今は永遠に続いたら、私、おかしくなると思う」


詩織はそう言うが、俺は腑に落ちない。

今が、夏休みが永遠に続けば、プールに遊びに行ったり、カードしたり、ゲーセンに行ったり、ずっと遊んでいられる。自由だ。


「私は今が永遠で無くても、毎日楽しいよ。千歳君がいるから」


「まあ、そうだな。俺も詩織と一緒に居ると楽しいよ。でも、中学が終わったら、俺たちは会えなくなるかもしれない」


将来、俺たちは進路の関係で別れるかもしれない。詩織とは別れたくない。親友として。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る