第4話

久しぶりの詩織の家。


俺の家の向かい側に位置する場所にある。



「お邪魔します」


「千歳君こんにちは。上がって上がって」


詩織の部屋は2階の廊下の奥。


白い絨毯に壁の端にピンクのベッド。

ここまでは普通の女子の部屋だけど。


クローゼットの隣の棚。


カードが入ったケースが大量に並べてある。


「これ、全部バーチャルストラテジーのカードなのか?」


「いや、バーチャルストラテジーだけじゃなくて、他のカードゲームも混じってるよ。エンシェントグレイブ、キャッスルモンスター、ワールドクリエイトとかその他諸々かな」


「ふーん、そうなんだ」


ここまでカードゲームをやり込んでいる女の子はそうは居ないだろう。ただカードゲーム以外のことに無関心で、流行りの音楽とかの知識があまり無い。カードの情熱を他のことにも向ければ、いいのだが。


「千歳君のデッキを作ろうと思います!」


「小遣いは6000円準備してきたが、これで足りるのか?」


「えっとね、必要なカードは60枚でデッキの18枚はマテリアルになるから残り42枚を魔法、オブジェクト、ユニットになるけど、注意点があってね。マテリアルには色があって、1つの色を決めたら、他の色のデッキは組めなくなるの」


ああ、使えるカードは色に依存するのか。


詩織が床に置いたマテリアルカード。

色は6色。

赤、青、黄、緑、白、紫。


マテリアルは宝石のようなデザインだ。


「何色にするか決める前に、どのカードが好きかを選んでもらいます。選んだカードを軸にデッキを組もうね」


詩織は棚から赤色のケースを取り出した。

蓋を開け、その中のカードをマテリアルのそばに並べる。


「凄い光っているな。このカード高いのか?」


詩織は首を横に振った。


「これらのカードはクラウンレアカードと言って、1box買えば、必ず1枚はついてくるカードで相場は大体300円くらいかな。単体でもカードパワーが高いから、この中の1つを軸に組むのが、本当の初心者のやり方かな」


「とは言え、俺はこれ見ても、何が強いか分からないのだが」


「だから、今からバトルして確かめるの」


「俺と詩織が?」


「そうだよ。私はデッキたくさん持っているから、どのデッキが使っていて一番楽しいかを感じて欲しいんだ」


マジかよ。

今日は軽い感じで来たのに、なかなかスパルタだな。


詩織とルールを確認しながらゲームを進めていく。バーチャルストラテジーの重点を確認しながら。マテリアルの枚数のバランス。ユニットの使い方。魔法カードで大切なことはmp300をどう使うか、など。


魔法カードはmp300を消費するため、デッキに入れる場合は対戦の中で、どの魔法カードを何枚使うかを想定して使うのが大切など。


「魔法カードは消費mpが大きいほど、強力な効果を持っているから、デッキに入れる時は2枚かピン差しが丁度いいよ」


「ほうほう」


「昔は魔法カードは消費mpの他にバイタルという数値があって、魔法は使用後魔法石になる設定があったけど、魔法石を消費して、召喚できるバイタルモンスターが当時の環境で大暴れして、それで今はバイタルを持つ魔法はレギュレーションで禁止になったの。またバイタルモンスターが復刻するかもしれないけど、バイタルモンスターは私好きだったから、頑張って集めていたのに、突然使用禁止は酷いよね」


「強すぎるカードは使えなくなるのか。確かにみんな同じ強いカードばかり、使っていたらマンネリ化してつまらないからな」


赤は高火力のカードが多い。

青は打点が低いけど、ドローがたくさんできる

緑は複数回攻撃や隠密効果など、戦闘での特殊効果が豊富。

黄色はスキルを駆使して戦うカードが多い

紫は相手のユニットを弱らせたり、除去して戦う

白は仲間を次々呼び出して、コンボで決める


詩織の説明とデッキを回した感じ、この解釈で合っているだろうか?


俺はどれが好きな色かと聞かれたら、使いやすさで考えれば、赤だ。


1枚1枚の戦闘力が高いから、余計なことを考えずに戦える。

 他の色はテキストが複雑だし、今は赤が一番しっくりくるな。


「千歳君の好きなカードは何かな?」


ユニットはそれぞれギルドに属している。

赤のギルドのエターナルフェニックス。

個人的にこのギルドが一番好みだ。


永遠の不死鳥。


このギルドのクラウンレアカードのジョエル・マドリカ。このキャラクターは女性キャラではあるが、大剣を背中に背負い、二丁拳銃を装備して、戦闘のエキスパートみたいな強者のオーラを発していてカッコいい。金髪の高身長。背も高い。


カードのユニットは日本人だけでなく、外人をモチーフにしたものもある。


「ジョエル・マドリカがいいかな」


「あ、千歳君はジョエル選ぶんだ。こういう女性が好みなの?」


「好みというか見た目がかっこいいキャラを選んだだけだが」


「ごめんね。深い意味じゃないよ。ジョエルは使ってる人少ないから意外だな、と思ってね」


ジョエル人気ないのか。こんなにもカッコいいのに。


色気はないが、ワイルドでギャルで金髪。

完璧じゃないか。


「とりあえず、ジョエルでデッキ組もうか。あははは…」


詩織は苦笑いしながら話を進める。


「ジョエルは手札を1枚捨てることで、このターン2回攻撃できるが、ターン終了後、デッキの下に送られるの。つまり、瞬間火力は出せるけど、隙が大きいんだ」


「ほうほう」


「ギルドエターナルフェニックスの関連カードでいくつか固める。そうすればエターナルフェニックスのサーチカードが使いやすくなるんだよね。サーチカードは8枚。不死鳥の笛と団員出撃をそれぞれ4枚ずつ入れればいいよ」


赤のマテリアル18枚

ジョエル、不死鳥の笛、団員出撃。これらを4枚ずつか。


「私はエターナルフェニックスのギルドデッキはあるけど、千歳君の場合は秋葉知里がおすすめだね」


「日本人もいるんだな」


「寧ろ日本人の方が多いよ」


そりゃそうか。



「でね。秋葉知里の効果が2つあって、スキル7で自分の場のギルドエターナルフェニックスのユニットがアタックする時、対象のユニットの打点をこのターン+3できるの」


ジョエルマドリカの打点は3。秋葉知里の効果で打点が6となり、2回攻撃で12打点。秋葉知里の打点が3だからピッタリ15点。


ジョエルマドリカはマテリア3。秋葉知里は2。マテリアルが5枚揃った状態でジョエルと秋葉を出して、攻撃が全部通れば勝ち。


「これ少なくとも5ターンはかかるな」


「そうなの。だからジョエルと秋葉以外は5ターンの間、相手を妨害するカードと起点作りやサーチカードを入れればいいよ」


「なるほどな」


「アムゾンよりメラカミの方がカードの値段安いからメラカミで買うといいよ。ジョエルなら大体4枚で600円くらいだし、秋葉知里は4枚で1200円くらいだと思う。マテリアルはカードショップの20円コーナーにたくさん売っているから18枚で360円だね。不死鳥の笛は4枚でいくらだったかな?確か400だと思うけど。団員出撃は4枚500円くらいかな」


よく知っているなあ。

詩織は単品買いが一番安く買えるというけど、単品でもそれなりに金かかるんだな。

今の段階で3060円。

ジョエルマドリカ、秋葉知里、不死鳥の笛、団員出撃、マテリアル18枚。

合わせて34枚。

残りデッキに入れられる枚数は26枚だ。

残り資金は3000円だ。


「千歳君の持ち金のこと考えると、なるべく低価格でデッキを回しやすくすることを考えよう。そうだオブジェクトカードだ」


詩織は青のケースから中のカードの束を取り出す。


「オブジェクトカードは永続効果を持つカード。キーパーツが揃うまでは、オブジェクトで対処しようね」


俺は1枚1枚オブジェクトカードを眺める。その中に面白いカードがあった。


セントイライアス。


北アメリカの北西部に存在する山。


テキストにはこう記されている。


このカードが場にある時、相手がマテリア1のユニットでアタックする時、SPゾーンのカードを2枚相手のデッキの上に置く。


「これ面白いな」


俺はメラカミでセントイライアスのカードを検索する。


4枚300円!

安い!


「なあ、詩織。このカード入れてもいいか?」


「うーん、いいんじゃない。私はありだと思うよ。あとサーチだけでなくて、ドローソースもありるといいね」


残り22枚。資金は3700円。 


デッキがしっかり組めるように枚数と金額を調整する必要があるのは分かってきた。


「ドローソースなら簡単な魔法カードで幸運のシャワーというカードがあって、mpを半分消費してデッキからドローする。千歳君のデッキはコンボパーツにmpを使わないから、このカード入れてもいいかもね。あとは除去カードが10枚は欲しいかな」


幸運のシャワーが4枚800円

そして除去カードが10枚  



「有名な除去魔法としてマッドハンド、ブラストバーン、炎上都市。これそれぞれ合わせて10枚で1500円くらいだよ」


残り1400円 枚数8枚


「残り1400円だね。となるとユニットではなく、モンスターでも入れてみる?」


「モンスターとユニットで何か違うのか?」


「モンスターとユニットというカードの種類としては分かれているけど、基本的には同じだね。おすすめだとレッドプチドラゴンとインプかな」


「分かった。その2枚にするよ。これでデッキは完成だな」


「インプは400円だけど、レッドプチドラゴンは1000円だね。これが6000円で組めるデッキです」


キーンコーンカーンコーン。

遠くから学校のチャイムが鳴る音がする。

もう5時か。


「悪いな長居して。助かったよ」


「私も楽しかったよ。また明日ね」


俺は詩織の家を後にした。




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