第3話

屋外のルナスの舞台会場。

客席には客席がほぼ満席になるほど、人が賑わっている。


舞台の中央には1台のテーブル。


恐らく、あのテーブルでカードゲームをするのだろう。


黒いシルクハットを被ったスーツの男が舞台に現れる。


「これより、カードキングダイゴとダイヤモンドランク1位のミカゲ選手とのエキシビジョンマッチを行います。準備が整うまで、少々お待ちください」


カードゲームの演出としては派手だな。

オーケストラの演奏。

 ルナスの盛大な盛り上がり。


プールじゃなくて、テーマパークに来てるみたいだ。


再びスーツの男が舞台裏から歩いてきた。



「大変お待たせいたしました。それではプロのカードゲーマーによる試合をお届けしたいと思います」


観客の歓喜の声。

青いTシャツを着た長身の男。

ダイゴ!ダイゴ!ダイゴ!ダイゴ!

ダイゴコールが会場全体に響き渡る。


「千歳君。あの人がダイゴさん。日本一カードゲームが強い、最強プレイヤーだよ」


「ほう、日本一ねぇ。でもカードゲームって運ゲーだろ。日本一強いというより、日本一カードの幸運の女神に愛された、みたいなレッテルとは違うのか?」


見た目はインテリというより、どちらかと言うと、スポーツマンだ。鍛えられた肉体はカードの世界より、運動選手のように思える。


「続きまして、ダイヤモンドランク1位のミカゲ選手の登場だ」


ライトがミカゲと呼ばれる男に向けられる。

メガネをかけた165センチぐらいの身長の見た目は高校生ぐらいの男。体格は細めでいかにもカードゲームをやっている雰囲気を出している。ダイゴとは違い、インドアのイメージだ。


観客からのコールは無いが、その代わりに拍手でミカゲを歓迎する。


2人はテーブル越しに向き合い、それぞれポケットに忍ばせていた、カードを台に置いた。


「いよいよ始まるのか」


息を飲み、意識を台の方に集中する。


「それではバトル開始!」


コングの音が響き渡り、会場のモニターにテーブルの様子が映し出される。


素人の視点では、何をやっているか、全く分からないが、カードを巧みに展開して、なんやかんやしてるなーとは思う。


スーツの男の解説で会場がおー!とかすげー!とか声が聞こえて、なんとなく凄い駆け引きをしてることは伝わった。


 詩織は試合に釘付けで、目を光らせている。こいつのこんな顔を見たのは初めてかもしれない。


「これでトドメだ」


「そんな馬鹿な。そんな1手をこのタイミングで!?」


キンキンキンキーンと激しいコングの音が響き、試合は決まった。


ダイゴは左手を上げて、ガッツポーズをする。会場の観客に手を振り、ありがとうーと大きな声で発した。


「なあ、詩織。この2人の試合はどうだったんだ?」


「えーとね、ダイゴさんの圧勝だったよ。ジャガンジアで自分のオブジェクトを破壊して消滅効果でグラビティエンドをサーチしてからの2体のバウンス効果を使う流れは強かったよー」


うん、意味分からん!

破壊はカードがやられた時のキーワードなのは分かるが、サーチとかバウンスって何だ?カードを調査したり、カードがぴょんぴょん跳ねたりするのか?


「それにね、リーサルまでのmp管理が完璧だったね。ギルドゴールデンキングダムのテーマはダイゴさんが全国大会で優勝した時に手渡されたカードでね。魔法を軸に強力なモンスターを呼ぶコンボが決まれば、ほとんどの環境デッキが打点が届かないから、直接の殴り合いで勝てなくなるから、オブジェクトや装備カード、魔法カードで盤面処理するぐらいしか、勝つ手段がないの」


よく喋るなあ。普段はおとなしい性格の詩織はカードゲームのことになると饒舌になる。特に憧れのダイゴのこととなれば、ドーパミンが活性化して、気分が高まるのは当たり前か。


「ミカゲさんもゴールデンキングダムの対策は当然してた。マジックテンペストのギルドカードを軸とした戦いで、魔法カードをオブジェクトの魔術の覚醒魔法陣でオブジェクトにチャージして、コントロール軸で戦っていたけど、黄金の城とジャガンジアの2枚があるとジャガンジアは相手の魔法効果を受けつけなくなって、打点が元々低い、マジックテンペストのユニットはジャガンジアを突破する手段が無くなって、後半は何もできなくなったの」


つまり、ダイゴは無茶苦茶強いということか。

端的な解釈はこうなる。


カードゲームのインターテイメントが各地方で開催される今の時代。俺のようなカードゲームの知識が皆無の人間の方が珍しいのかもしれんな。


エキシビジョンマッチが終わり、これでショーが終わりかと思えば、そうでは無い。会場はお祭り会場と化し、フェスティバルが始まった。


ダンスに歌。カードの対戦はよく分からなかったけど、こうした祭りごとなら、観てて楽しめる。


「ねえ、千歳君。今日ここに来てよかった?」


何を突然?それは楽しかったに決まっている。友達とプールで遊んで、はしゃいで、いい思い出だ。


「そうだな。夏のいい思い出になったよ。詩織だって楽しかっただろ?」


そう、楽しかった。この時間が永遠に続いてほしい。ずっと続く夢。永遠に冷めない夢ならどれだけ楽しいと感じられるかな。


「もしもだよ」


「ん?」


「この世界が作られた世界で、私たちの日常は本当は別の世界にあるとしたらどうかな?」


本当の世界は別?

詩織にしては珍しい話題だ。

そう感じるくらい、今日は楽しかったということだろう。


「そろそろ帰る?」


詩織が尋ねる。時間はもう5時。

時間が経つのがあっという間に感じた。


更衣室にて着替えを済ませ、入り口で詩織を待つ。


「お待たせ、ごめんね、遅れちゃって」


「別にそんなに待っていないよ。行こうか」


楽しい1日だった。

やはり夏休みは最高だ。

学校に行かなくていいし、毎日ゲームしたり、遊べる。


 学校は嫌いでは無い。今は弘人や詩織もいるし、昔より話せる人が増えた。


「提案だけど、千歳君もカードゲームしてみない」


カードゲーム。

今日やってたやつか。

詩織がよくやっているカードゲーム。

詩織は色々なカードゲーム触ってるけど、本人が一番好きなカードゲームは確かバーチャルストラテジーだ。


2025年。デジタルの技術が大きく進化した時代。


プログラムで作られた仮想世界。この頃のラノベは異世界ものが流行っており、異世界と仮想世界はほぼ同意義である。


この仮想世界で行われるギルドのユニットやモンスターの戦いをカードゲームとしたもの。


それがバーチャルストラテジーだ。


「そうだな。やってみるのも悪くないか。いいぜ。やるよ」


「やったぁ」


詩織は嬉しそうに微笑む。


「だけどカードはどうやって集めるのがいいんだ?カードパックとか市販のデッキを買うのがいいのか?俺持ち金そんなに無いのだが」


「それも手の一つだけど、最低限のお金で強いデッキを組むなら、ネットでカードを単品買いした方がいいよ」


「アムゾンとかメラカミとかか?」


「うん。パックでデッキを組むと、欲しいカードを全部揃えるのに、大体6箱。つまり、180パック900枚のカードを買うことになるから、予算も30000円ぐらいするし、組むデッキもその弾で出るカードでしか作れないから、結局、効率は良くないの」


詩織は淡々と語る。


「なら、市販のデッキはカードが最初から揃っているからいいのでは?」


「市販のデッキはルールの基礎を覚えることを目的に作られたデッキだから、将来的に強いデッキを組む時、1からパーツ集めすることになるの。なら、最初から欲しいカードだがネットで買った方がいいってことだね」


「だが、その欲しいカードが何かが俺は分からないのだが」


「うーん、なら明日その話をしようね」


「お、おう」


「じゃあね。また明日」


「ああ、明日」


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