弱音

雨が窓に当たる音を聞きながら僕は本の世界に浸っていた。雨の音を聞いていると落ち着くし、本の世界に浸っていると、この世界では経験できないことや知らない知識、それを見たり考えたりするだけで、僕はこの窮屈な世界に生まれたことを忘れることができる。それが僕が本を好きな理由でもあるし、読む理由でもある。なんで本が面白いの?と不思議に思う人もいるだろうけど、本こそが人間が創り出した中で1番面白いモノだと思う。人は一人一人違うというけれど、それは本を見れば1番わかる。書く人によって、ジャンルも違うし、名前・性格・世界観・言葉遣い…。たくさんの違いがある。似ているようで似ていない。だから、面白い。僕はよく嫌なことがあると本の世界にずっと浸っていた。読むだけで嫌なことも忘れられるし、何よりそれが生きがいだから。でも、最近は違う。

彼女がいてくれる。誰も僕とは話そうとしなかったのに彼女だけは、嫌わずに話しかけてくれる。でも彼女も僕のことを知ったら嫌いになるのかな。それとも優しいからずっと一緒にいてくれるのかな。僕はそれが怖い。人間に一生と言う言葉は無い。「ない」と言うよりは、使えないのかもしれない。人間は、いろんなことを経験して成長する。だからこそ、永遠もないし一生もない。

「一生君を愛す。」と言ったところで、数十年、死ぬ間際まで愛している事は無いだろう。「好き」と言う感情はあるだろうけど、昔よりは色褪せている。そう思うと何のために人は恋愛をするのかがよくわからない。失敗したら、傷つくし、成功しても傷つくかもしれない。「人生は成功するだけじゃ楽しくない。」って言う人もいるけど、僕は心が弱いから、傷つくのが怖いから、成功しないと楽しくない。人に嫌われるのは慣れているけど、自分が好きになった相手に嫌われるのが怖い。すごく恐い。だから僕は何事にも不安を抱いていて、弱音しかはかない。

だけど彼女は違った。弱音を吐いて「できないかも」って言った時、彼女は言った。「大丈夫だって。」 僕が大好きな笑顔でそう言った。初めて彼女の言葉を聞いたとき、僕は固まってしまって何も言うことができなかった。だって、「大丈夫」て言われるとは思っていなかったから。「頑張れ。」「できるよ」って言葉は言われた記憶があるけど、「大丈夫」って言葉は言われたことがなかった。なんだろう? あの言葉を聞いたとき、僕の心は初めての感情を知った気がする。

それと同時に彼女をとても羨ましく思ってしまった。僕にはないものをたくさん持っている彼女が…。

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拝啓 亡くなった君へ 高橋そら @aevos502

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