彼女の秘密1

ある日の午前。私は彼に会いに行くために日差しがサンサンとさす草木の道を歩いていた。この道は普段誰も使わないので少し荒れているが、それでも歩くには十分な道だった。私はそんな道を歩きながら、最近仲良くなった彼のことを思い出す。最初サクラの木の下で出会った時は、正直驚いた。周りから行っちゃダメ。と言われていた場所に少年がいたんだもん。それは驚いて当然だよね。そこで私は気づいたんだ。彼が大人が言っている少年なんだって…。

そんなことを思っていると立派な門が見えてきた。この門をくぐった先に彼がいると思うと、思わずスキップしそうになったが、慌ててこらえた。だって、彼に見られたら恥ずかしいから…。彼はいつだって私がすることを優しく見守ってくれる。まるで、何か眩しいものを見るかのように目を細めることもあったけど、私はその優しい瞳が大好きだ。彼の目を見ていると心が温まる。今まで経験したことがなくて、最初は戸惑ったけど、今ではとても心地よくて、ずっと彼のそばにいたいと思ってしまう…。

それほど彼は私の中で大切な人になっていた。

門をくぐってから少し歩くと立派な赤レンガの家が見えてくる。また、彼はひなたぼっこしながら本を読んでいるのかな…。と思いつつ、歩くスピードを少し速めた。私は彼とは違う環境で生まれた。当たり前のことだけど、当たり前よりかけ離れすぎている気がする。私の周りにいる大人たちは言う。

(山に入ってはいけない。山で少年を見かけても話かけてはいけない。それは、殺人鬼の子。犯罪者の子。悪魔の子。恐ろしいものだから近づいてはいけない。)

そんな話を無視して私は山に入った。だって、聞いたんだ。大人たちとは違う存在のおじさんから…。

(あの山にはなぁ。それはそれはきれいなサクラの木があってのぉ。この町で唯一のサクラの木なんじゃ。…。大人たちが山に入るなだって…?

…うむ。確かにそうじゃ。だが、あの子が悪いわけではない。だからと言って、両親が悪いわけではない。もちろん、大人が悪いわけではない。

難しい環境に生まれた者。悲しい出来事を受け止められなかった者。病気が恐ろしい者。…。人は美しい生き物じゃ。感情と言うものがあるおかげで、喜び・楽しさを感じることができる。だが、それと同時に怒り・悲しみ・恐怖といったものを感じる。美しいものには毒がある。それは人でも一緒。美しい生き物だからこそ、他の生き物ではありえないような恐ろしさがある。いいか、美しさの価値は人によって違う。だから、自分で美しさを決めるんじゃ。自分が美しいと思ったらそれを貫くんじゃ。人にバカにされてもじゃ。ただし、人に無理に共感を求めてはいかん。そして、否定をしてもいかん。…。人は難しいからこそ美しいのかもしれない。難しい世界から旅立とうとするものもいるが、それがその人にとって考え抜いたことなのかもしれない。自然にとっては、人間の一生は短い。だが、長いと思う人が多い。それは、未来に不安を持っているからじゃ。人間は儚い生き物。だからこそ好きなことをしたら良いのじゃ。だが、よく考えてから行動するんじゃぞ。)そう言っておじいさんは笑っていた。もしかしたら、私が山に入りたがっているのに気づいていたのかもしれない…。

それから、私は山に入り彼に出会った。そして、決めたんだ。私の価値観を…。彼は、美しい。と。

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