勢力解説:スシ

 攻撃あるのみの勢力です。守りに回ったら即終わりです。


 極東にルーツを持つ流民の群れがステップの遊牧勢力と合流し構成された、雑多な装備の略奪団です。

彼らは厳密に言えば一つの勢力ではありませんが、帝国に対し凄まじい怨恨を抱えているという点において一致しています。

極東風の装備を備え、機動力に優れた兵科を揃えますが、一方で防御力には大きな欠落を抱えています。

 故地から焼け出された流民集団に過ぎない彼らの装備や戦術の質は、はっきりいって劣悪です。

例えばオルク武士の振るう曲刀は肉を斬ることに特化しており、熟練者が用いない限り帝国の優れた金属鎧に対して文字通り「刃」が立ちません。

かき集めた金属片を繋げて作られた大鎧は、その重量のわりにさして信頼できない防御力しか発揮できません。

オルクたちは蛮勇といえるまでの高い士気を持っており、体格を活かした無秩序な体当たりで戦列を押し上げて戦います。

しかし彼らの豪胆さも、帝国の統制された戦術の前では結局匹夫の勇に過ぎません。

唯一優れていると評価できそうなのは威力に優れた特殊な形状の大弓ですが、これも射撃速度に難があり矢衾を形成するには心もとないといえます。

 彼らの強みは、物量と機動力にこそあります。

例えばオルクやゴブリンといったグリーンスキン種の兵士たちはいくら倒されようといくらでも代わりが出てきます。

傭兵として彼らに力を貸すステップの騎兵は機動力に優れており、正面対決さえ避ければ帝国の騎兵隊にも十分対抗できます。

彼らの魔術師は「符術」と呼ばれる、帝国文化圏とは系統の異なる魔法を使用するため、少し立ち回りに癖がありますが、とても強力です。

また一部のユニットは被撃破時に爆発し敵を道連れにします。



 アルティピア世界の東方、ツンドラ地域を超えた先にはステップ地帯が広がっています。

そのまたさらに東、敢えていうならば極東地域には、かつてアルティピアのものとは異なる文化を持った文明が栄えていました。

 作中時間から約80年ほど遡るころ、「極東戦役」と呼ばれる帝国軍の極東への侵略がありました。

侵入を受けた極東の諸勢力は、この恐ろしい外敵を「西戎」と呼び、従前の関係を越えた合従によって対抗を試みました。

しかしそんな抵抗もむなしく、結局極東地域は戦禍を経て破滅的なまでの荒廃をみることになりました。

 大平原に華開いていた都は略奪し尽くされ、天子の住まう美しい宮城は熱い灰の立ち込める廃墟へと成り果ててしまいました。

朝凪の地に屹立し、占星術を司った大天文塔はへし折られ、叡智の結実そのものであった資料の全てが焼かれるか持ち去られました。

島々に点在した八百万の神々を祀る聖域もまた、帝国軍団兵のサンダルによって滅茶苦茶に踏みにじられました。

かつて調和と太平とをその基とした極東地域は、帝国の侵攻による大破壊を経た今では、辛くも生き残った軍閥同士が延々と小競り合いを続ける無間地獄に過ぎません。

 戦禍で故地を追われた難民のうちには、漂流の末ステップ地帯付近で暮らすようになったものもいました。

こうして出来上がった有象無象の集合体がスシ・ウルスです。彼らは次第に土着の遊牧勢力と結合し、西方への侵入と帝国軍との交戦を繰り返すようになりました。

 何十年もの時が経ち、「西戎」への明確な復讐意識も、故郷がかつて誇った栄華も、スシ・ウルスの短命種たちの記憶からは薄れつつあります。

西方への侵入は、明日の糧を得るための単なる方策に過ぎなくなりつつあるのが現状でした。


 一方で、かつて大平原の都から落ち延びた妖狐族の有力者、睡前(シュイチェン)のような長命種の者は、かつて咲き誇った文化、侵略者の横暴、燃え尽きる故郷、何もかもを色鮮やかに思い起こすことができます。

記憶の中で「西戎」への憎しみは未だ故郷の面影と共に燃え続けており、永い時の中を生きる彼女たちの悲願は今なお復讐の遂行に向けられているのです。

しかしそうだとして、もはや荒野に暮らす放浪集団に過ぎぬ彼女らに今更何ができるというのでしょう?


 そんな中、西からの風に運ばれて、ある噂がステップを駆け巡ります。曰く「龍帝大茄子立ちて将に西戎を討たんとす」と。

九天の雲は龍に従い、俄に垂れ始めました。アルティピア帝国の天命が尽きるのであれば、睡前たちの悲歌慷慨の日もまた終わるはずなのです。

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