Report33. メアリーの本心

「銃声……!出所はエルト城の方か!」


イサミはエルト城へと続く大通りで、メアリーが放った発砲音を聞いていた。


「どうしてエルトの敷地内で銃声が…?とにかく、早くエルステラたちの下へ向かわなければ。」


早く着くために、何か使えるものはないか?イサミは辺りをキョロキョロと見回す。

すると、とある民家の入り口に緑色に輝く板が立てかけてあるのを見つける。


魔法板マジカルボードか……済まないが、しばし拝借させてもらう。」


そう言うとイサミは、立てかけてあった魔法板を外し、その平面に両足を乗せる。


「魔法板……俺をエルト城まで連れて行ってくれ。」


イサミの願いに呼応するように、魔法板の輝きが増す。

その後、少しずつ高度を上げながら前へ進み始めたその時、


「おーーい!待ってくれーー!イサミーー!」


背後から大声をあげながら、緋色の髪の少女が走ってくるのが見える。


「ソニア!?どうしてここに?」


「銃声が聞こえて、イサミがエルト城へ向かって走って行くのが見えたから追いかけて来たんじゃ!一体なにかあったんじゃ!?」


ソニアは魔法板と並走しながら、イサミに尋ねる。


「……わからない。何があったのかを確かめる為に、俺は今からそこへ向かう。」


「そうか……わかった、ならばわらわも同行させてもらおう。」


そう言うなりソニアは魔法板の空いたスペースにひょいっと飛び乗り、落ちないようにイサミの腰に両腕を回すのであった。


「ソニア!今から行く場所は何が起こっているかわからない。大人しくここで待っているんだ!」


イサミはしがみつくソニアをなんとか引き剥がそうとする。しかし、ソニアはガッチリとイサミに張り付き、頑として魔法板から降りようとはしなかった。


「いーやーじゃーーー!もう待ってるだけなのは我慢ならんのじゃ!それに、エルステラとメアリーが危ないのだろう?あの二人にはわらわにとってもかけがえのない親友じゃ。助けに行きたい……力になりたいんじゃ。イサミよ、どうかわかってはくれぬか?」


ソニアは潤んだ目でイサミに懇願する。

イサミは根負けしたと言わんばかりに、大きくため息を吐いた。


「はぁ…分かったよ。だが、危ない場所であることには変わりはない。くれぐれも……」


「俺の側を離れるな、じゃろ?分かっておるよ、イサミ。」


イサミの言葉を遮ったソニアは悪戯っぽく笑う。

それに釣られてイサミも小さく笑った。


「あぁ…その通りだ。ソニア、少しスピードを上げるぞ。振り落とされないよう、しっかりと捕まっているんだ。」


「あぁ!分かった!」


魔法板は再び高度を上げ、エルト城を目指す。

エルステラとメアリーの無事を祈りながら、イサミとソニアは互いの手をギュッと握る。


しかし、既に王の間は凄惨せいさんな状況になっていることを二人はまだ知る由もなかった。



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イサミとソニアを乗せた魔法板は、エルト城のバルコニーに到着する。

魔法板から素早く降りると、イサミはバルコニーの扉を勢いよく開ける。


「エルステラ、メアリー!無事か!?……え……?」


イサミの目に映ったのはにわかに信じ難い光景であった。


王の間の床には血溜まりが出来ており、その中心には左胸を撃ち抜かれ、倒れているエルステラがいた。


そして、さらにその先には──


うつろな笑みを浮かべ、返り血を浴びたメアリーが立っていた。そしてその右手には、先ほど銃声を発したであろう拳銃が握られているのであった。


「え…なんなのじゃ……これは。一体どういうことなんじゃ……?」


イサミから少し遅れて玉座の間に入ってきたソニアもまた、自身の目に映る光景が信じられないといったように呆然としていた。


「ソニア!エルステラに回復魔法をかけてくれ!まだ助かるかもしれない!」


顔面蒼白で立ち尽くしていたソニアに、イサミは応急処置の指示を出す。


「わ、わかった!」


ソニアは倒れているエルステラの下へ駆け寄ると、すぐさま回復呪文を唱え始める。

それを確認したイサミは、その場から全く動く気配の無いメアリーを睨みつけた。


「メアリー。これは一体、どういうことなんだ……?どうして倒れているエルステラを助けないんだ?この状況だけを見ると、メアリーがエルステラを撃ったように見える。」


イサミはここで、懐から魔力貯蔵箱マジカルバンカーを取り出し、それをメアリーへと向ける。


「答えてくれメアリー。エルステラを、自分の姉を撃ったのはお前なのか?」


頼むから間違いであってくれ。イサミはそう強く願った。

しかし、その願いが叶うことはない。


「そうよぉ、イサミくん。姉さんを撃ったのは私よぉ。」


メアリーはいつもと変わらない、ゆったりとした口調で事実を突きつける。


その言葉を聞いた時、エルステラの介抱に当たっていたソニアの目からは一筋の涙が零れ落ちた。


イサミは手に持った魔力貯蔵箱に、少しだけ力を込める。


「どうしてそんなことを……!何か理由があってのことなのか?」


イサミの問いに対してメアリーは少し考えた後、シンプルな、しかし残酷な答えを口にする。


「憎かったのよぉ、姉さんが。私より、なんでも上手くこなす姉さんが憎くて邪魔でしょうがなかったのよぉ。だから──消しちゃったの。」


少し溜めを作って言い切ったメアリーは、悪びれもせずクスリと笑う。


「メアリー……お前、エルステラの力になりたいって言ってたじゃないか!それなのに、どうして…どうしてこんなことを……」


「ロボットのあなたには分からないでしょうねぇ。人間が持つ嫉妬心なんか。」


「なんだと…?」


「早く撃ってごらんなさいよぉ。その手に持った魔力貯蔵箱で私を倒すんでしょう?」


挑発に乗ったイサミは手に持った箱に力を込める。そして、メアリーに最終通告を告げるのであった。


「それがお前の、メアリーの本心……という訳だな。」


「そうね。その通りだわ。」


「そうか、ならば本当に…本当にやりたくはないが、メアリー……お前を倒すしかない……解放リベレイション!」


ガーレンとの戦いで得た覇道砲のエネルギーを、メアリーに向かって放つ。


そのエネルギー弾がメアリーに直撃するかに思われたその時、


吸収障壁アブソーブ・シルト。」


しゃがれ声の呪文と共に、メアリーの前に半透明な壁が現れる。一点に集中されたエネルギーはその障壁によって分散され、結局メアリーの所まで届くことはなかった。


「フォッフォッ。本当に感情というものが無いのだな、ロボットというものは。今まで世話になった相手にも躊躇ちゅうちょなく牙を剥くか。」


メアリーの前に障壁を作った張本人、大賢者ランドルフ・エリックノードは、ニヤニヤと笑いながら血塗られた王の間へと入ってくる。


「ランドルフ……!お前がどうしてここに……!」


「フォッフォッフォッ!それをお主が知る必要はない。お主らの旅はここで終わるのだからな。さあ、やってしまうのだプロトとやら。」


「……御意。」


さらにそのランドルフの背後から、王によって作られたロボット、プロトが姿を現す。その不気味に光る赤い目は、確実にイサミを獲物として捉えていた。

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