Report34. 執念

暗闇から不意に現れたプロトを見て、イサミは瞬時にが自身と同類であることを理解した。


「お前…AIロボットだな。どこで造られた?俺と同じように、この世界に送られてきたのか?」


イサミの問いに対して、プロトは少し考えるような素振りを見せた後、感情の無い小さな声でボソボソと喋りだす。


「……わからナい。俺ニ与えられた使命ハただ目の前にあるものヲ全テ殲滅せんめつするというコトだけダ。その他の情報は持ちアわセてはいない。」


「誰に造られたのかも分からないか?」


「そレは…」


プロトは自身の生みの親の名前を口にしようとしたが、ランドルフがそれを遮るような形で口を挟む。


「御託を並べるのはそこまでにしておけプロト。貴様の役割はただ一つ。そこにいるイサミを屠ることだけじゃ。」


「……御意。」


ランドルフに言い質されたプロトは、本来の使命を遂行すべく腕の中から仕込みナイフを取り出した。


「……任務……続行。」


そう呟いたプロトは一瞬にしてイサミとの間合いを詰め、右手に握った得物でイサミに襲いかかる。


「くっ…!」


次々と繰り出されるプロトの連続攻撃に対して、イサミは躱すのが精一杯であった。


「付け入る隙がない……!」


MODE-Fighterで普段よりも身軽な状態にあるイサミであったが、それでもなおプロトの速さが上回っているのであった。


その様子を見て、ランドルフは満足そうにニタリと不敵な笑みを浮かべる。


「さて、イサミはプロトに任せるとして…ワシは姫君を捕らえるとしようか……」


そして、エルステラの介抱に当たっているソニアに照準を合わせるのであった。


「ちぃっ…!やめろ!!ランドルフ!なぜエルステラの側近であるお前がこのようなことを!」


イサミはプロトの攻撃をなんとか避けながら、ランドルフに向かって声を荒らげる。


だが、ランドルフは意にも介さないといった様子でゆっくりと、しかし確実にソニアに近づいていく。


「フォッフォッフォッ。イサミよ…お主は本当に、甘っちょろい。まるで世間知らずの子どものようだ。」


「なんだと……。」


「ワシにとっても、エルステラは邪魔者でしかなかったのさ。そういった意味でワシとメアリーの目的は合致していた。故にワシはメアリーと協力し、戦争が始まる何日も前から暗殺の計画を企てていたのじゃよ。」


「ディストリア帝国の力を借りてまで……か!」


「フォッフォッ!ご明察じゃ!ワシは秘密裏にディストリア帝国と接触し協力を仰いだ。よりスムーズにエルステラを殺せるようにな!連中は乗り気じゃったよ!なんせこの国の至宝、魔晶石を喉から手が出るほど欲しておったからな!」


「なぜ、そこまでしてエルステラ王を消そうとした!」


「ワシの魔晶石の研究を邪魔するからじゃ。エルステラ……奴は側近という名目でワシを自分の支配下に置き、ずっと監視をしておった。奴のせいで数十年、研究の進捗に遅れが出たよ……じゃが、ついに!ついに研究の成果が実を結んだのじゃ!」


そう言うなり、ランドルフはローブの内ポケットから小さな赤い石を取り出した。


その不気味に輝く赤い石を見たソニアは驚きの声をあげる。


「それは…!まさか!魔晶石の破片か!」


「如何にも。」


ランドルフは得意げに笑う。


「魔晶石は決して破壊することができない物質のはず…それをどうやって……?」


「確かに、物理攻撃や魔法では到底魔晶石を破壊することは不可能じゃ。そこでワシは構成されている元素を全て調べ上げ、それを一つ一つ、固く結ばれた紐を解くように、原子レベルで分解していったのじゃ。まさに気が遠くなるような作業じゃったよ……分解した元素を再構築するのはさらに大変じゃった…だがその甲斐もあり、ようやくこの破片を手にすることができた!」


興奮を隠しきれないランドルフはうっとりとした表情で、小さな赤い石を愛おしそうに見つめる。


「人が持つコアの魔力エネルギーには限界がある。故に魔法を連続で使い続ければいつかは尽き果ててしまうのじゃ。じゃが、この魔力の源である魔晶石をどうなると思うソニア?」


ランドルフはソニアに向かって醜い笑みを浮かべる。


「まさか…!や、やめろーーーーーー!」


ソニアの制止も虚しく、ランドルフは口を開け、何の躊躇も無く魔晶石の破片を飲み込んだ。


「ククッ…!ハハッ!ハハハハハハハハーーーーーー!」


玉座の間に、ランドルフの下卑た笑い声が響く。

ソニアは呆然と立ち尽くし、恐怖からか目に涙を浮かべていた。


そしてイサミは、プロトの攻撃を躱すことで精一杯。


メアリーはというと誰かを攻撃するでもなく、生気のない目をしながら人形のように立ち尽くしていた。


しかし、


「も……うや……メて……。ダレ…か、タ…スケ……テ……」


「……え?」


剣戟けんげきを受けながら、イサミはメアリーの口から発せられた小さな声を確かにキャッチする。


そして、そのメアリーの虚ろな瞳からは静かに涙が零れ落ちるのであった。

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