Report19. 全面戦争

「全面…戦争…?」


そう呟いたソニアの顔はひどく青ざめていた。


そんなソニアとは対照的に、イサミは至って冷静な態度でエルステラに疑問を投げかける。


「エルステラ王…それは一体どういうことだ?何故戦争が起きると言い切れる?」


エルステラは少し考えた後、意を決してイサミたちに告白をする。


「そうだな…其方らになら話しても良いか……あまり公にはしていないのだが、我には少し先の未来を視る力があるのだ。

そしてちょうど今より一週間後、ディストリア帝国軍が最大の戦力を持ってしてこの国を攻めてくるという未来が視えた。

イサミ、其方はなかなかに見所がある。是非ともこの戦いに加わってもらいたいと思っている。だがもちろん強制ではない。断ってもらっても一向に構わないが……どうだろうか?」


「……その未来というのは本当に起こりえるのか?」


イサミの問いに対して、エルステラの代わりにメアリーが答える。


「姉さんは、この予知能力で今まで数々の災厄の危機を救ってきたわ…だから…本当に悲しいのだけど、この戦争は間違いなく起きてしまうでしょうね……」


それを聞いたソニアは意識を失い、倒れこむ。イサミはその身体をとっさに抱きかかえた。


「ソニア!大丈夫か?」


「気を失ってしまったみたいね…ディストリア帝国にはソニアと親しい家臣もいるから…この子にとって、辛い戦いになるわね……」


「ディストリア帝国は一体何が目的でエルト王国に戦争を仕掛けるんだ?」


エルステラは人差し指を天に掲げながらイサミの問いに答える。


「予言するまでもなく、目的は分かりきっている。我らの上にある国の象徴、魔晶石だ。この石はエルト王国特有のもので、世界に一つだけしか存在しないものだからな。

これまでも様々な国がこの石欲しさに戦争を仕掛けにきたものだよ。

ま、その度に返り討ちにしてやったがね。」


「話し合うことでなんとか解決は出来ないのか……?」


エルステラは、眉間にシワを寄せながら静かに首を横に振る。


「いや…奴らは話し合いのテーブルにつくような連中じゃない…そもそも、この戦いは奴らの奇襲から始まるのだからな。初めから侵略することが目的なのさ。」


「驚いたな。そんなことまでわかるのか……」


「ただ、どのように攻めてくるのかまではわからないんだ。だから今、様々なケースを考えて兵を配置している所だよ。そして戦力は一人でも多い方が良い。話を戻すがイサミよ、他の国から来たお主を巻きこんでしまってすまないが、力を貸してもらえないだろうか?」


「……わかった。そのミッション、引き受けよう。」


「そうか…ありがとう。」


「ただ一つ約束して欲しいことがある。」


「ほう?それは一体なんだ?」


「向こうの兵士を殺すような戦い方はして欲しくない。」


「……ソニアの為…か。しかし、なかなかに難しい注文だな。向こうはこちらを蹂躙じゅうりんする為に本気で侵略をしにやってくる。

故にこちらも手加減などすることはできぬ。現状では極力善処する、という回答しかできないがそれでも構わないか?」


「そう…だよな。無理を言ってすまなかった。だが、俺自身はそういう戦い方をするということを許して欲しい。」


「それは構わないが……死ぬなよ?自分の身を第一に考えて行動することを我にも約束してくれ。」


「わかった。約束しよう。」


「うむ。それでは、これからの動きについては会議室にて行う。そのまま我に付いてきてくれるか?」


「ああ、わかった。メアリー、すまないがソニアをお願いしてもいいか?」


「ええ、わかったわ。」


イサミは腕のなかで気を失っているソニアをメアリーに預けた。


「では案内しよう。こっちだ。」


イサミはエルステラに促され、玉座の間を後にした。


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一方、ディストリア城の玉座の間ではある二人の男がワンの前に跪いていた。


一人はオージェにクビを言い渡した『五龍星』のハリル、そしてもう一人は人間とは思えないほどの巨躯な老人であった。


二人を見下ろしながら、王は静かに話し始める。


「此度のエルト王国への侵攻作戦はお前たち二人に任せる。」


「はっ!ありがとうございます、我が王。必ずや王都を陥落させ、魔晶石を持ち帰って見せましょう!」


深々と頭を下げ忠誠の意を見せるハリルに対して、巨躯な老人はいきなり大声で笑い出した。


「グハッ、グワッハハハハハハ……!」


「何がそんなに可笑しい?ガーレンよ。」


王は冷ややかな口調で巨躯の老人に問う。


「いや、なに。久々に思いきり暴れることができる思ったら、今から楽しみでしょうがなくてな……つい笑いが込み上げてしもうたのだ。」


「ふん…そうか。」


王は心底興味なさそうに返事をする。


「ところで我が王よ。エルト王国に強いヤツはおるのか?ワシと対等…いやそれ以上の力を持った気骨のあるヤツはおるのかのう?」


「おいガーレン!あまり王様に不躾な質問をするな!……すみません我が王。コイツは戦うことでしか楽しみを見出せない、脳筋戦闘狂なものでして……」


ハリルはガーレンをフォローしようとしたが王は右手を挙げ、それを制する。


「構わない、その問いに答えてやろう。強者というのであれば現国王のエルステラであるだろうな。先の未来を見通す力を持つ上に防御呪文のエキスパートときている。攻略するのにはかなり骨が折れるだろう。」


「ご安心ください。私どもの戦闘力で必ずや打ち破ってみせます。」


ハリルは意気揚々と誇らしげに答える。


「頼もしいな、ハリル。だが物事には万が一ということがある。念には念を入れておかなければなるまい。コイツを連れて行くが良い……こちらへ来い、プロト。」


王の呼びかけに応じて、玉座の裏から一人の青年が姿を現す。


「……オヨびですカ、マスター?」


その青年は虚ろな表情を浮かべたまま、自らを呼んだ主を見つめるのであった。

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