Report20. 王の野望

「……我が王。この青年は一体何者なんです?」


ハリルは虚ろな表情を浮かべたプロトを見ながら、不可解だと言わんばかりに顔をしかめた。


「フッ…こいつは私が開発したAIロボットだよ。」


「えー…あいロボッ…ト?見たことも聞いたこともありませんね。具体的に我々と何が違うのです?」


「なにもかも違うさ。プロトは人の心を持たない人形なのだからな。」


「感情がない…ということですか?」


「そうさ。なまじ人間は感情を持つが故に、判断が鈍ることがある。喜び、怒り、悲哀、憎しみ……どれも実にくだらないものだよ。

戦場では、その一瞬の気の迷いが生死を分ける場合もある。ハリル…私は感情に左右されることなく、淡々と任務をこなす忠実な兵士ソルジャーを求めているのだよ……」


ワンはプロトを優しく撫でながら、ハリルの方をチラリと見た。

そのハリルは納得できないといった顔で王に問いかける。


「我が王…我々の忠誠心を信じておられないと、そう仰るのですか?」


ハリルの言葉に王は不敵な笑みを浮かべた。


「人間など……最初ハナから誰一人として信用しておらんよ。ましてや、口先だけの忠誠など反吐が出る。」


「……私が、口先だけで物を言っていると、そう仰るわけですね?」


「そう思われるのが嫌であれば、結果で示すのだな。」


王の言葉にハリルは悔しそうに唇を噛む。

しかしその一方で、隣にいるガーレンは小さく笑みをこぼしていた。


「ガーレン!貴様何をニヤニヤと笑っている!」


ハリルはぶっきらぼうにガーレンに理由を尋ねた。


「いやなに。そこの男から凄まじい殺気が溢れ出しているのでな。戦いたくてウズウズしているのだ。なあ王よ、こいつと一戦交えても構わんか?」


ガーレンはプロトの方を指差しながら、提案を持ちかける。

しかし、これに対して王は首を横に振るのであった。


「ダメだ。こいつはまだ不完全なのでな。今お前とやったところで簡単に壊されてしまうだろう。

プロトは私の野望を成就させる、その第一歩目の試作機。今回の戦争で経験を積ませたいのだ。」


「王よ。あなたの言う野望とは、一体なんなのですか?」


ハリルは訝しげに王に問う。

それに対して王は、ほくそ笑みながら答えた。


「AIロボットの軍団を作ることだ。」


「エーアイロボットの……軍団?」


「そうとも。感情を持たず、ただ与えられた任務だけを忠実に遂行する軍団だ。人間は死んでしまったらそれで終わりだが、ロボットは破壊されたとしても大した損害はない。資源さえあればいくらでも作り出すことができるのだからな。

これからの時代、人間がやってきた戦争をロボットが行うようになるのだよ。」


「つまり…我々はもうお払い箱というわけですか?」


ハリルは、饒舌に語る王を睨みつけた。


「そうは言っていない。ロボットには統率する管理者が必要だからな。お前たち五龍星にはそのポストを約束してやろう。」


王のこの発言が引き金となり、ついにハリルの怒りが爆発する。


「僕を馬鹿にするのもいい加減にしろ!機械人形の管理者だと!?

なんなら今ここで証明してやりますよ!こんな鉄の人形なんかより、僕の方がはるかに優れていることをね!」


そう言うなりハリルは懐から魔導書を取り出し、呪文を唱え始める。


「鉄屑にしてやるよ!禁呪!無限炎獄インフィニティ・インフェルノ!」


プロトの足元に魔法陣が現れる。

その直後、火山が噴火したような爆音とともに、プロトは黒い火柱に包まれた。


「ハハハハ!どうだい!こんなもんに頼らなくても勝てるんだよ!」


ハリルは先ほどまでの礼儀正しい態度とはうって変わって、歪んだ笑みを浮かべ高らかに笑う。


しかし──


バツンッ!


糸が切れたように、黒い火柱は突然消滅した。


「なにっ…なぜだ!?なぜ、魔法が途切れた!?!?」


ハリルはなにが起きたか理解できず、動揺する。


そして火柱に包まれながらも無傷のプロトは腕の中から仕込みナイフを取り出し、無表情のままハリルの喉元目掛けて襲いかかる。


防御態勢が遅れたハリルは、死を覚悟した。


『まずいっ!死……』


「そこまでだ!プロト!」


王の一喝でプロトの動きがピタッと停止する。


ナイフの切っ先はハリルの喉元数ミリ手前で止まっていた。

ハリルは恐怖のあまり、その場で尻餅をついてしまった。


「な…なんで…?なんで、僕の魔法が突然消えてしまったんだ!?」


ハリルは恐怖と悔しさが入り混じったような表情で、プロトの製作者である王に問う。


魔法無力機マジックキャンセラー。プロトにはそれが搭載されている。」


魔法無力機マジックキャンセラー……だと?」


ハリルは苦々しくその名前を繰り返し呟く。


「その名の通り、あらゆる魔法を無力化する装置だ。どうやらうまく作動したようだな。」


「ちょっと待て!そんなもの…今まで見たことも聞いたこともないぞ……!」


「当然だ。私が考案したのだからな。そしてこの装置こそが、魔法大国エルトを堕とす切り札でもある。貴様たちにも渡しておこう。」


王は指をパチンと鳴らすと、玉座の裏から黒いローブを被った従者が現れ、ハリルとガーレンの二人に黒い石がはめ込まれたブレスレットを手渡した。


「それを腕につけることで、全ての魔法は無力化される。大事に扱うが良…」


「フン!」


バキッ!


王が言い終わる前に、ガーレンはそのブレスレットを握りつぶし破壊した。


「なんのつもりだ?ガーレン。」


当然、王はガーレンの行いを問い詰める。


「ワシの信条は真っ向からぶつかって、全てをぶち壊す!故にこんなチャチな小細工はいらぬのだよ!用が済んだのなら、ワシはこれにて失礼するぞ。戦いのために身体をさらに鍛えなければならぬからな!」


ガーレンは破壊したブレスレットをポイっと投げ捨て、ガハハと豪快に笑いながら玉座の間を後にするのであった。


王は粉々になったブレスレットを見つめながら、ため息をつき不満そうに呟いた。


「……つくづく人間は御し難い。だから、嫌いなのだ。」

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