第13話 旅立ち(1)

「なあんか楽しそうねえ」

 そう言って、カーラがため息をつく。

「え。そ、そんなことは……」

 お菓子の切れ端を布に包みながら、わたしはうつむいた。なんというか……恥ずかしい。

 聖誕祭から数日たち、お屋敷に、いつもの日常が戻ってきた。

 わたしたちは畑の横のいつもの場所で、カーラがこっそり持ってきてくれた焼き菓子を分け合っていた。と言っても、一人分はほんのわずかな大きさなのだけれど、その小さな切れ端を、さらに半分にしてアルベルトさんに持って帰ろうとしたら、そんなことを言われたのだ。

「だ、だって、いつもお世話になってるし……」

 下を向いてもごもご言うわたしに、カーラがやれやれという顔をする。

「はいはい、そうよねー。お世話になってるわよねー。……あんたさっきから顔が赤いわよ」

「う……」

 ――まったくもう。と呆れ顔をしたカーラが、ふう、と息をついて、空を見上げた。

「ほんと。……あんた達見てたら、毒気が抜かれちゃうわ」

 つぶやいて、黙り込む。やがて、ふたたび口を開いた。 

「……マルティナ、わたし」

 そこで一つ、息をついて。

「決めたわ。……どんな手を使ってでも、必ずここから逃げ出してやる。そのためなら、あの旦那様にも、他の人たちにだって、媚びるんでも、何でもやってやる」

 皮肉げに、ちらりと笑う。けれど、その目はしっかりと前を見ている。

「そりゃ、今すぐにとは行かないわ。でも、絶対に逃げてやる。そうして、新しい人生を始めるの」

「……うん」

 わたしはカーラを見つめた。

 うなずく。すると、カーラが少し笑った。

「こんなふうに思ったのは、あんたたちのせいでもあるのよ」

「えっ?」

「あんたたち、見てて。新教徒も、悪い人たちばかりじゃないんだ、って、そう思ったから」

「…………」

「だから、ちょっと、信じてみようか、って。頑張ってみようかなって」

「……うん。……うん! カーラ」

 わたしは大きくうなずいた。

 きっと、カーラになら出来る。

 きっと出来る。

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