第28話 陰影

 発射されたミサイルが爆煙を上げ、狼煙のように敵の位置を示す。

 俺の後方では爆炎が巻き起こり、蛇がのたまうように炎が撒き散らす。

 都市部は壊滅的ダメージを負い、俺を追ってきた敵機が海岸までおびき出される。

『ほらほら早くしないと、わたしたちが勝っちゃうよ』

 にやりと笑い俺は反転。背部のスラスターを最大限にふかし速度を上げる。

『いきなり!』

 実莉が驚きの声を上げ、急ブレーキをかける。

 肩部にあるミサイルを発射し、敵の足止めをする。手前で爆散させたのだ。

 それにより敵機と俺を分ける防壁ができたようなものだ。

『こんなもんに!』

 実莉は怒りを露わにし、煙を蹴散らす。

 がちゃっとハンドガンを構える実莉。

 煙が晴れると俺はハンドガンで狙撃する。

 甲高い音を上げ、各駆動系にダメージを与えていく。

『こいつ!』

 怒りと焦りの声を上げる実莉。

「俺はこいつを倒す」

『待ちなさい。わたしたちと仲間になれば、あなたの自由にできるわ。それで文句ないでしょ?』

 どこまでも人を馬鹿にする。

 アガツガリを手にして高周波ブレードを敵機に向ける。

 大型シールドを捨て、接近戦にもつれ込む。

 ぶつかり合う巨体。振動。どれもが映画で見るような光景に、息を呑む。

 俺たちはこの巨躯でどれだけの人をすりつぶしているのか。

 不安と悲しみが広がっていくほどにスワローの動きが鈍くなる。

『もらい!』

 実莉が笑みを浮かべて突き進んでくる。その手にはハンドガンが握られている。

 放たれた砲弾は肩や膝といった硬い部分だが、損傷は小さくない。

「くっ」

 小さく呻くと俺は敵機を中心にとらえ、右手に持ったハンドガンで応戦する。

 この距離なら狙える。

 各関節を打抜き、左手で持った高周波ブレードで斬りかかる。敵機の肩口がバターのように切れていく装甲が地面に落ちる。

『やってくれたわね。内藤』

 吐き捨てると、スモーク弾と煙幕を放出し、その場から立ち去る実莉。

「逃がすか!」

 バーニアをふかすが、それを止める声が聞こえる。

「おうな。内藤、キミなら分かるはずだ」

 松平の声にハッとし、俺は追撃を止める。

 被弾機を使っての囮など十分に考えられる手段じゃないか。俺は軍事高校で一体何を学んできたのか。

 悔しくて握りこぶしが震える。


※※※


「あーあ。内藤くんかー。さすがお姉ちゃんの目のつけた子ね。素敵じゃない」

 水中航行を行うAnDの中で静かに呟く実莉。

『で。敵は倒せそうか?』

「無理ね。反射神経、重心の崩し方、対応力。どれをとってもわたしたちのメンバーにかないっこないわ。内藤敦さん」

『ふっ。そこまで成長していたか』

 何かを懐かしむように、悲しむかのように微笑む敦だった。

「いいんですか? せっかくの親子対面ができたのに?」

 実莉は気遣うように尋ねる。

『いやいいんだ。まだその時じゃない』

「いいですよね。息子を軍に入れたくなくて、反連邦軍に入るなんて」

 実莉の言葉にはどこか陰りがあるように思えた。

 姉の存在がちらつく。

 もしも内藤敦という人物がもっと優れていたのなら、姉も一緒に助けてあげられたのかもしれない。

 わたしのたった一人の家族を。

 その家族がいなくなって初めて、この世界を疑うようになった。それまで尻尾を振る犬だったのが、野生の一匹狼になるにはそう時間はかからなかった。

 わたしは姉の死の真相を知りたい。内藤ならなにか知っていたのかもしれない。

 歯噛みをし、モニターを強く叩く。

 そこには自分の醜い顔が反射していた。

「ふっ。いいさ。次に会ったときはぺちゃんこにしてやる」

 わたしは拳をぶつけ合い、苛立ちを発散させるのだった。

『しかし、だ。息子も完全にはこの世界を理解していないだろう。この醜く歪んだ世界を』

 にやりと口の端が歪む内藤だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る